約 1,746,370 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9472.html
前ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十四話「穏やかなるバオーン」 催眠怪獣バオーン 登場 ド・オルニエールに出現した怪獣バオーンの特殊能力によって一辺に眠らされてしまった ルイズたちであったが、幸いなことにその間誰かに危害を及ばされることはなく、数時間後には 無事に目を覚ましたのだった。 そして今はオルニエールの領民の一人である老人の家で、詳しい事情を伺っていた。 「はぁ、あの怪獣バオーンがこの土地に現れたのは、一か月ほど前になるでしょうか」 老人は、王都に近いだけあってなまりのない、綺麗な言葉遣いであった。 「バオーン?」 「怪獣でも名前がないとかわいそうなので、わしらで名づけました。バオーンと鳴きますので」 「まぁ名前は何でもいい。それより、一か月も前から現れてたと?」 ギーシュが話の先を促す。 「左様です。いきなりドーン! と大きな音がしたので皆で何事かと見に行けば、畑の真ん中に バオーンが逆さまになっておったのです。きっと、空から落っこちてきたのでしょうなぁ」 ということは、バオーンは恐らく宇宙怪獣だ。 「わしらも初めは驚きましたし、怖がりもしましたが、バオーンはちっとも暴れたりなどしない 大人しい奴なので、今では皆すっかりと慣れました」 「慣れましたって……あいつの鳴き声を聞くと眠ってしまうのだろう? 迷惑とは思わないのか」 呆れ返るギーシュ。どうやらバオーンの鳴き声には催眠効果のある音波が含まれている ようで、それで領民たちも自分たちも瞬時に眠らされてしまったみたいである。 にも関わらず、老人はほんわかとしている。 「まぁ今のド・オルニエールはあくせくと働く者はいませんので。特に問題は起きておりません」 「のんきなものねぇ……」 ルイズたちはすっかりと呆れ果てた。 老人から事情を聞いたところで、皆でバオーンについての相談を開始する。 「で、あの怪獣、バオーンをどうするかなんだけど」 一番に意見を出したのはマリコルヌであった。 「ぶっちゃけ、ほっといてもいいんじゃないかな。別段これといって被害が出てる訳じゃ ないんだろ? 相手は曲がりなりにも巨大怪獣なんだし、下手に刺激したら余計な被害が 出てしまうかもしれないじゃないか。それだったらいっそ……」 「冗談じゃないわよ!」 しかしルイズが強く反対。 「仮にもここは、姫さまから下賜されたわたしたちの暮らすこととなる土地なのよ! そこに鳴くだけで人を眠らすような奴がいたら、迷惑極まりないわ!」 「ですねぇ……。わたしも、家事の最中に昏睡させられたらたまったものではありませんし……」 ルイズに続いてシエスタもそう意見した。次いで才人が指摘する。 「それにここはトリスタニアからそう離れてないだろ? もしもバオーンが王都の方に 行っちゃうったら、大惨事は間違いないぜ」 「それもそうか……」 うなるオンディーヌ。トリスタニアはのどかなこことは違って、昼も夜もあくせくと 働く人たちで賑わっている。そこにバオーンが迷い込んでひと鳴きでもしてしまえば、 大事故は必至だろう。 バオーンを今のままにはしておけないということで決定し、話し合いは次の段階に 移行する。喧々諤々と意見を交わすオンディーヌ。 「じゃあ、あの怪獣はやっつけるか……」 「それはかわいそうだよ。あいつ自体には何の悪気もないんだろ?」 「元いた場所に帰すのが一番いいだろうな」 「けど、あんなでかいのを人間の力で空に送り返すなんて無理だろ」 「ここはウルティメイトフォースゼロを呼ぼう。彼らなら簡単のはずだ」 「でもあいつ、鳴くだけで眠らせてくるんだろ? 近づくだけでも難しいぞ」 「ゼロたちが対処しやすいように、あいつが鳴き声を出せないように俺たちがしないと いけないな」 話が纏まってきたところで、ギーシュがふと辺りを見回した。 「ところで、レイナールはどこに行ったんだ? さっきからずっと姿が見えないが」 「ただいま」 噂をしたところで、レイナールがルイズたちのいる民家へと入ってきた。キュルケを伴って。 「キュルケ! レイナール、一体どこまで行ってたんだ?」 「一旦学院まで馬を飛ばしてたんだ。オールド・オスマンからこれを借りにね」 レイナールが皆に配ったのは、耳栓。それに才人は見覚えがあった。 「あれ、これってもしかして、ウェザリーさんの魔法の対抗に使った奴じゃ……」 懐かしさを覚える才人たち。ウェザリーの音を介した催眠魔法の対策として、この風魔法の 掛かった耳栓を使用したのだ。 「その通り。催眠音波をさえぎる奴だよ。怪獣の能力を聞いた時に、ピンと思いついたんだ」 「さすがだなレイナール! これであいつの鳴き声も怖くないぞ!」 ギーシュたちは嬉々として耳栓を嵌めていく。その間にキュルケはルイズに話しかけた。 「ルイズ、あんたたちってよくよく怪獣に縁があるのね」 「ほっときなさいよ。ていうか何であんたがついてきてるのよ」 「だってジャンがアクイレイアからさっぱり帰ってこないから、待ちくたびれちゃって。また 面白そうなことしてるみたいだから、様子を見に来たのよ」 「相変わらず野次馬根性丸出しねぇ……」 呆れてため息を吐くルイズ。そんな彼女にキュルケはそっと尋ねかける。 「ところであんたとルイズ、この土地に居を構えるつもりなんですって? 卒業したら結婚する つもりかしら?」 と言われて、ルイズはボッ! と火がついたように赤くなった。 「そ、そういう訳じゃないわよ! 単に今までの延長、それだけのことなんだから」 とのたまうルイズだが、今度はキュルケが呆れ顔。 「結婚もしないで、一緒に暮らすの? そりゃあんたとサイトは主と使い魔の関係だけど、 他の人からしたらそんなのどうでもいいことだわ。きっと、悪い評判が立つわよ。お互いに」 「そ、そんなの関係ないわ! 気にしないもの」 「そんな簡単に済む話かしらねぇ。あんた、公爵家でしょ。色んなしがらみがついて回る はずよ。きっとすぐにその辺を思い知るでしょうね……」 「何よそれ、どういう意味……」 ルイズが聞き返そうとしたところで、ギーシュたちが作戦を練るのを終えた。 「よし、これで行こう! 日暮れまでもうあまり時間がない。どうにか今日中に済ませて しまおう」 外に出たオンディーヌは力を合わせて土魔法を掛け合い、巨大な土のマスクを作成。 それに『錬金』を掛け、青銅へと変える。そのサイズは、ちょうどバオーンの口を覆える ほどであった。 「よし、これでいいだろう。こいつをレピテーションでバオーンの口に被せてふさぐ。 そうするとバオーンは鳴き声を出せなくなる、という寸法だ」 「なるほどね。あんたたちにしちゃよく考えたじゃない」 皮肉げながら称賛するルイズ。見たところバオーンには他に特殊能力はないようだし、 鳴き声さえ出せなくしてしまえば、もう何の問題もなくなるはずだ。 「いつも活躍してるのはサイトだがね、ぼくたちだって日々を寝て過ごしてる訳じゃ ないんだよ。ここらで名誉挽回さ」 胸を張るギーシュ。そこにちょうどよく、バオーンがのっしのっしと歩いてやってきた。 「おッ、いいタイミングだ。では諸君、作戦開始だ! まずは向こうの気を引きつけて、 十分な距離まで近づかせて……」 ギーシュがテキパキと指揮を取る一方で、バオーンの視線がこちらに向けられた。 「バオ?」 しばらくはボーッ、と眠そうな目でいたバオーンだが……その目つきが、急激な変化を 起こす。 「バオッ!?」 バオーンの瞳が爛々と輝いたかと思うと……のっそりとしていた足取りが激しくなり、 猛烈な勢いでルイズたちの方へと走ってきた! 「バオ――――!」 「えぇーッ!?」 当然仰天する一同。そして慌てて散り散りとなってバオーンから逃れていく。 「う、うわーッ!」 「危ない! 逃げろぉ―――――ッ!」 ギーシュと並んで走るルイズは、バオーンの突然の変化に目を丸くしていた。 「どうなってんのよ!? 少しも暴れたりはしないんじゃなかったの!? 話と全然違う じゃないのよ!」 「そんなことぼくに言われても困るよ! ともかくこれじゃ、マスクを被せるどころじゃ ない……!」 「バオ――――!」 耳栓のお陰でバオーンが鳴いても眠らされることはないが、怪獣はその巨体だけでも 人間には十分すぎる凶器。走ってくる怪獣からは必死に逃げるしかない。 しかしよく見てみると、バオーンは無闇にルイズたちを追いかけ回している訳ではなかった。 「ちょっと!? 何でアタシばっかり追いかけてくるのぉー!?」 バオーンはキュルケにのみ狙いをつけて、彼女一人を追いかけているのだった。 「い、いやぁーッ! 助けてジャ―――ン!!」 「キュルケが危ないわ! 早く何とかしなさいよギーシュ!」 慌てふためいたルイズが手近なギーシュの襟首を掴んだが、 「い、いや……暴れる怪獣を止めるなんてぼくたちには……」 「ちょっとちょっとぉ! さっき名誉挽回とか言ってたじゃない!」 「出来ることと出来ないことがあるよッ!」 ギャアギャア言い争うルイズとギーシュ。それをよそに、才人はこそっと木陰に身を 隠してウルトラゼロアイを装着する。 「デュワッ!」 才人はたちどころにウルトラマンゼロに変身し、一気に飛び出してバオーンとキュルケの 間に着地した。 「バオッ!?」 上から降ってきて立ちふさがったゼロにバオーンは驚いて急停止する。オンディーヌは ゼロの姿を見上げて歓声を飛ばした。 「おおッ、ウルトラマンゼロが来てくれた!」 「ゼロー! キュルケを助けてやってくれー!」 「結局人任せなんだから……」 ルイズのため息。 「シェアッ!」 一方でゼロは、バオーンを取り押さえて宇宙に帰すために怪力形態のストロングコロナゼロに 変身した。 『よぉっし! こいつで宇宙までひとっ飛びと行くぜ!』 意気込むゼロであったが、しかし。 バオーンはゼロの立ち姿をしげしげと観察していたのだが……ストロングコロナゼロに なった途端に、その目つきがキュルケに向けられたのと同じになる。 「バオ――――!」 そしてゼロに向かって思い切りダイブしてきた! 『うおッ!?』 驚いて咄嗟にかわすゼロ。バオーンは勢いのままに地面に突っ伏したが、すぐに起き 上がって今度はゼロを執拗に追いかけ回す。 「あいつ、ゼロに襲い掛かってるぞ!」 「やっぱり凶暴な奴じゃないか!」 「頑張れゼロー!」 オンディーヌは声をそろえてゼロの応援をするが、そんな中でシエスタは一人だけ、首を ひねりながらバオーンの様子を観察していた。 「あの怪獣……もしかして……」 驚きのあまりしばらくバオーンから逃げていたゼロだが、気を取り直してバオーンに向き直る。 『こいつ、大人しくしやがれ!』 超怪力でバオーンを押さえつけるゼロ。しかし力ずくで取り押さえられるバオーンが、大きく 口を開いた。 「ああッまずい!」 「バオ――――――――ン!」 バオーンが大声で鳴き声を発すると、途端にゼロの身体がふらつく。 「ウゥッ……」 そしてたちまちの内に昏倒してしまった。バオーンの催眠音波は、ゼロにも効果があるほど 強力なものなのだった。 「バオ?」 バオーンは仰向けに倒れたゼロの身体をつんつんと指でつつく。 「やめなさい! ゼロから離れなさいよッ!」 ルイズはゼロを援護するために、杖を手に取ってバオーンに向けようとするが……そこに シエスタが息せき切って走ってきた。 「ミス・ヴァリエール! 少しお待ち下さい!」 「どうしたのシエスタ!?」 シエスタはバオーンを見やりながら、こう言った。 「バオーンは……もしかして、赤い色が好きなのではないでしょうか?」 「へ?」 突拍子もない発言に、ルイズとギーシュは唖然。 「ほら、よくご覧になって下さい。バオーンには、ゼロを傷つけようとする様子がありませんわ。 きっと、遊んでほしいだけなのですよ」 「あッ、確かに……」 シエスタの言う通り、よく見れば、バオーンはゆさゆさとゼロの身体を揺さぶっている。 本当に危害を及ぼすつもりならば、今の内に激しく攻撃しているはずだ。 「わたしの幼い弟たちも、遊んでもらいたい時には無邪気に飛びかかってきます。その時の 様子と似ているので……」 「でも、赤い色が好きってのは?」 「バオーンがああなったのは、ゼロが姿を変えてからです。ミス・ツェルプストーは……」 キュルケは己の長い髪の毛をじっと見つめた。ツェルプストー家の特徴である、燃える ような赤毛。 「ああ、なるほどね」 「ド・オルニエールには赤い色がありませんから、今まではあんな風になったことがないのでしょう」 「そういうことか」 シエスタの話は筋が通る。ルイズたちは納得のいった風にうなずいた。 その内にゼロがハッと目を覚まし、じゃれついているバオーンをむんずと掴んで投げ飛ばした。 『こんにゃろうッ!』 「バオ――――!」 怒りながら起き上がったゼロに向けて、ルイズが叫ぶ。 「ゼロ、落ち着いて! バオーンは赤い色に興奮するだけなのよ!」 『! そうなのか……だったら!』 訳を知ったゼロはストロングコロナから、ルナミラクルゼロにチェンジ。身体の色が 青になったことで、バオーンは落ち着きを取り戻す。 「バオ?」 そしてゼロは光の球を作り出すと、それを赤く変色させて風船に変えた。 「バオッ!」 バオーンの視線は赤い風船に釘づけとなった。ゼロが風船を宙に飛ばすと、バオーンが 風船に向かってジャンプする。 「バオ――――!」 「シュッ!」 その瞬間、ゼロが両手より光線を発してバオーンの身体を空中でキャッチした。そのまま 念力によってバオーンを運びながら飛び上がり、宇宙に向かって上昇していく。 オンディーヌはバオーンを宇宙へ連れていくゼロに向かって大きく手を振った。 「ありがとう、ウルトラマンゼロ!」 領民たちもド・オルニエールから去っていくバオーンを見上げて、手を振る。 「おーい! また来いよー!」 「また来いですって!? 冗談じゃないわよ!」 誰かが言ったひと言を聞き咎めたルイズが怒鳴ったのを、シエスタがまぁまぁとなだめていた。 こうしてバオーンは無事に宇宙へと帰され、ド・オルニエールから怪獣はいなくなった。 ギーシュたちは結局アテにしていた収入がないことにがっかりしていたが、ルイズたちは 安心してド・オルニエールに暮らせるようになったのであった。 ボロボロの屋敷は業者に頼んで修繕してもらうこととなり、ルイズと才人は平日を魔法 学院で過ごし、週末にはここにやってきて屋敷の掃除をしたり領民たちと交流したりする 生活をするようになった。 領民は老人ばかりだが、バオーンを平然と受け入れていたことから分かるように、皆気さくで 性根のいい人ばかりであった。才人たちは彼らとすぐに打ち解け、とても良好な関係を築いた のであった。 そんな風に、ド・オルニエールでは今までの喧騒を忘れさせてくれるような、穏やかな 時間を過ごせるものと思っていたのだが……新しい波乱は、予期せぬ方向からやってきた。 才人が経験する、魔法学院の二度目の夏休みが来た頃には、屋敷は十分な生活が出来る 分には修繕が出来ていた。才人とルイズは、夏休みの間はこの屋敷で暮らすことを決定した。 それは良かったのだが、一週間が経過した頃に、その屋敷にとんでもない客が来たことを、 お手伝いとして迎えたヘレン婆さんがルイズたちに知らせに来た。 「旦那さま、大変でございます。大変でございます」 「ヘレンさん、どうしたの」 「お客さまでございます」 いつもはのんびりとしているヘレンがおろおろしているので、才人たちは目を丸くした。 一体どんな客なのか。 「それが、何とも怖い若奥様でございまして……。どこぞの名のあるお方の奥方とお見受け しましたが、これがまぁ、怖いの何の。眉間に皺を寄せて、このわたくしをじろりと! まさにじろりとにらんだのでございますよ!」 「怖い若奥様?」 「はい。ええと、お顔立ちはルイズさまによく似ております」 「……髪は?」 「見事な金髪で」 その特徴が当てはまる人物を、ルイズたちはただ一人だけ知っていた。ルイズの顔がさっと 青くなる。 「ヘレンさん、あの方は独身よ。名のあるお方の奥方なんて、冗談でも言わないことね。 耳をちょんぎられるわよ」 ルイズの忠告にヘレンは震えながら聖具の形に印を切った。 ルイズと才人が応接間でその人物を迎えると――ルイズの姉、エレオノールは一番に ルイズの頬をぎゅうッ! とつねり上げた。 「ちび! ちびルイズ!」 「いだい~!」 「あなたはもう、また勝手なことをして! 聞いたわよ! け、けけ……結婚前の男と女が 一緒に暮らすなんて! そんなのわたし、絶対に認めませんからね!」 エレオノールはルイズと才人の同居に関して、反対をしに来たのであった。 前ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9080.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十二話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(後編)」 謀略宇宙人マノン星人 登場 「やはり侵略者の一員だったか!」 正体を現したマノン星人に、アニエスが改めて銃を向けて発砲した。しかし弾丸は、マノン星人が どこからか取り出した刀身が柄の両方にあるレーザー剣にはたき落とされる。 マノン星人は剣を振るった流れで一方の切っ先をアンリエッタに向けて、そこから赤い光弾を発射した。 「陛下ッ!」 「きゃあ!」 アニエスはすぐにアンリエッタをかばい、伏せさせた。光弾はアンリエッタの頭上を越えて、 背後の壁に当たって爆発を起こした。 この隙に、マノン星人が走って地下牢から逃げ出していく。 「待てッ!」 アンリエッタをかばったアニエスに代わって、才人がその後を追いかけていく。 「きゃあッ!?」 「うわあぁッ!」 才人から逃げるマノン星人は城内を走り回り、すれ違った人たちを一様に仰天させた。 その内に、人気のない行き止まりに差し掛かって立ち止まる。 「追い詰めたぜ……。まさか、王宮で宇宙人と出くわすなんてな」 才人も立ち止まると、振り返ったマノン星人は哄笑を上げた。 『ハハハハハ! 愚か者め! お前は誘い込まれたのだ!』 「何だって!?」 そのまま才人に、自身の目的を語り出す。 『私はウルトラマンゼロであるお前の暗殺のために、この国に潜入した。そして一人になったところを 狙って近づいたのだ。原住民に正体を見破られるとは予想していなかったが、貴様のウルトラマンゼロへの 変身を不能にすることには既に成功している!』 「! さっきぶつかった時に、ゼロアイを……!」 先ほど懐から何かをかすめ取られたことを思い出す才人。 『その通り! 見ろ! これがなければ、貴様は変身できない! 私の勝ちだ!』 豪語したマノン星人は、才人から奪い取った、『メデューサの眼鏡』の残骸を堂々と見せつけた。 『……何!? 何だこれは!? ウルトラゼロアイではない! おのれッ!』 「あれは……ふッ、盗るものを間違えたみたいだな。ゼロアイはこっちの手にあるぜ!」 才人は懐から、本物のゼロアイを取り出して、顔に装着した。 「デュワッ!」 才人の姿が一瞬でウルトラマンゼロのものに変わり、王宮の廊下で二人の異星人が対面した。 『へへッ、お生憎様だったな! ウルトラマンゼロ、ここに見参だぜッ!』 『おのれ、偽物を用意していたとは……! 思ったよりも抜け目のない奴だ』 勝手に誤解したマノン星人は、再びレーザー剣を取り出す。 『こうなれば、直接対決だ!』 『望むところだ!』 ゼロは頭部からゼロスラッガーを両手に取り、ガチンと鳴らした。そして互いに飛び掛かり、刃を交える。 「シェアッ!」 「ムォォン!」 ゼロスラッガーとレーザー剣がぶつかり、激しく火花を散らす。ゼロの両手のスラッガーを、 マノン星人はふた振りの刀身で弾き返す。 右手のスラッガーの横薙ぎを、頭を下げてかいくぐったマノン星人はゼロの脇をすり抜け、 背後に回った。そこから背中を斬りつけようとするが、振り返ったゼロの刃に止められる。 だがマノン星人は逆回転すると、反対側の刃をゼロの足元に振るう。それを跳んでかわしたゼロは、 マノン星人の顎を蹴り上げた。 「ムォォン!」 二、三歩後ろによろめくマノン星人。すかさず斬りかかるゼロだが、素早く立ち直った マノン星人の剣がそれを止め、ゼロの腹部に膝蹴りが入れられる。速い蹴りをよける暇はなく、 ゼロは息を漏らす。 『ぐッ! 体術も出来るみたいだな……面白いじゃねぇか!』 ハルケギニアではあまり出会わなかった、純粋な体術が優れた相手との戦いに、ゼロの戦士の血が騒ぐ。 「シェアァッ!」 「ムォォン!」 二人は剣戟を繰り広げながら、城内を移動していく。途中で戦いを目の当たりにした城の人間たちは、 皆悲鳴を上げて部屋や城の奥に引っ込んでいった。 「あれは、ウルトラマンゼロ!」 そんな中で、地下から上がってきたアニエスが戦いの場に駆けつけ、状況をひと目見ると マノン星人に銃口を向けた。 「援護する!」 すぐに発砲するが、マノン星人は軽々と跳躍して、弾丸をかわした。そして着地すると、ゼロに告げる。 『邪魔が入ったようだな。場所を移そうではないか!』 マノン星人が身を翻すと、辺りの景色が一瞬で切り替わり、ゼロはいつの間にかマノン星人とともに 歌舞伎で使うような板を張った舞台の上に立っていた。 『あッ!? 何だここ!?』 桜の花びらが舞い踊り、わずかな照明が照らす部隊の中で、急に場所が変わったことに動揺するゼロ。 一方のマノン星人は、姿勢を低くしてレーザー剣を両手で握り、構え直す。 『……専用の戦場って訳か。ますます面白いじゃねぇか!』 自分たち以外の人間が一人もいなくなったことで、状況を呑み込んだゼロも、ゼロスラッガーを 逆手に握った右手を肩の上に、左手を脇の下に構え直して、マノン星人と向かい合った。 そのままジリジリと動いて、間合いを測り合う。 『……ハァッ!』 花びらが一層多く舞い散り、床にハラリと落ちたその瞬間に、二人は前に出て刃を交える。 ゼロスラッガーがレーザー剣の両方の刀身を受け止め、両者とも一瞬硬直する。その後に二人とも 前蹴りを繰り出し、それもぶつかり合って互いに足を引っ込めた。 刃と刃で押し合いながら、その場でワルツを踊るように回るゼロとマノン星人。しかし 埒が明かないと見たか、一旦離れて構え直す。 戦いの間、どこからか小鼓が囃子を奏で続ける。 仕切り直してから、改めて剣戟を始める二人。繰り出されるマノン星人の剣を、スラッガーがいなす。 スラッガーの斬撃も、剣で受け流される。 マノン星人の鋭い蹴りをゼロが横にそれてかわし。 スラッガーの斬り上げを、マノン星人はバク宙で鮮やかに回避した。 マノン星人の飛び蹴りからの剣の振り下ろしは、ゼロは横に回転して逃れる。 ゼロの足によるすくい上げでマノン星人は背中から床に倒れ込んだが、すぐさま身体を起こして持ち直す。 お互いに、なかなか有効打を与えられない。 「デャッ!」 ゼロとマノン星人は再度刃を交えて、押し合いになる。だがその瞬間、マノン星人が右手を 剣の柄から離し、素早くゼロの喉を鷲掴みにした! 『ぐッ!?』 喉を締めつけられるゼロは苦悶の声を上げた。ゼロスラッガーで反撃しようにも、息の苦しい状態では 上手く力を出せず、片手のレーザー剣をなかなか押し返せない。 『ぐぐぐ……!』 ギリギリと、喉を締める力は強くなっていく。それにつれてゼロの顔色が青くなっていくが、 『らぁぁッ!』 一瞬の隙を突いたハイキックがマノン星人の胸元を捉え、大きく蹴り飛ばした。それにより 喉は締めつけから解放される。 戦況は一気に傾く。肉薄したゼロの斬撃を、剣で弾こうとするマノン星人だが、蹴り飛ばされた際の 衝撃が響いて、動きが先ほどまでよりも鈍る。そのため体当たりをするようなゼロの斬撃の連続を 止め切れず、少しずつ後ろへ押し込まれていく。 「ムォォン!」 だが意地を見せつけるかのように、不利な状況から脱する。攻撃後の隙を見計らって前転しながら跳躍し、 ゼロの頭上を跳び越えたのだ。そして振り返りざまに、切っ先から光弾を発射する。 「ゼアッ!」 しかし光弾は、薙ぎ払われたゼロスラッガーにはね返されて、マノン星人へと戻ってきた。 自らの胸部に命中し、大きくよろめくマノン星人。 ここに来て、ゼロがいよいよ勝負を決するために、マノン星人へと駆け出した。マノン星人も 逃げも隠れもせずに、迎え撃つために前に出て走る。 「デュワッ!」 「ムォォン!」 ゼロスラッガーとレーザー剣が翻り、一閃した。すれ違ったゼロとマノン星人は、背中を 向け合ったまま停止する。 『……』 ゼロもマノン星人も、振り抜いた獲物を手にしたまま止まっている。 ……が、やがて、マノン星人がグラリと傾いて、前のめりに倒れ込んでいった。その胸には、 スラッガーの刀傷が深々と刻まれていた。 マノン星人は床に倒れ、目の光が消えた。絶命すると同時に、異空間は瞬く間に消え去り、 ゼロは元の場所へと戻ってくる。 『終わったか……。静かだが、熱い戦いだったぜ』 戦闘後の余韻に浸り、つぶやくゼロ。そこに、アンリエッタが早足で駆けつける。 「ウルトラマンゼロ! こんなところで出会うなんて……! あなたにはたくさん聞きたいことが!」 「陛下! あまり近づいてはいけません。万一のことがあります故」 ゼロに駆け寄ろうとするアンリエッタを、アニエスが押しとどめた。その様子を見やりながら、 ゼロがぼんやり考える。 (アンリエッタ王女、いや今は女王か……。こうして対面するのはこれが初めてだな) 才人の状態なら、数度会っているが……なんて思っていたら、カラータイマーが赤く点滅し始めた。 そろそろエネルギーが残り少ない。 『おっと、長居し過ぎたか。アンリエッタ女王、侵略者は倒したぜ! 安心しな! じゃあ俺はこれで!』 マノン星人を倒したことを報告して、アンリエッタたちと反対方向へ走っていこうとするゼロを、 アンリエッタが慌てて呼び止める。 「お待ち下さい! せめてこれだけはお答えを! あなた方は、どうしてわたくしたち人間を 助けてくれるんですか!?」 その問いかけに、首だけ振り返ったゼロは、次のように答えた。 『理由なんてないぜ。強いて言うなら、俺たちはいつだって精一杯生きる人間の味方なんだ。 それだけのことさ!』 「あッ! 行ってしまう!」 言い残したゼロが駆け出し、角を曲がる。アンリエッタとアニエスがすぐに追いかけたが、 二人が角を覗いた時には、ゼロの姿はもうどこにもなくなっていた。 「……ふぅ。こんなところで戦いになるなんて思わなかったな」 王宮のアンリエッタたちから離れた廊下で、ゼロは人がいないことを確認してからゼロアイを外し、 才人に戻った。才人は早速ため息を吐く。 「宇宙人連合ってどこにでもいやがるな……。今回は運が良かったからいいものの、怪しい奴には 気をつけないと」 「サイトぉ!」 神出鬼没な宇宙人の脅威を改めて肌で感じたところで、ルイズが才人の下に駆けつけてきた。 「おッ、ルイズ……おわッ!?」 「馬鹿ぁッ!」 振り返った瞬間に、胸の中にルイズが飛び込んできた。涙目のルイズはそのまま才人の胸を叩く。 「聞いたわよ、また襲われたんですってね……もうッ! わたしの見てないところで危ないことになって! ご主人様にこんなに心配させて! ホントに馬鹿な使い魔なんだからぁ……」 「……ああ、ごめん」 口では責めながらも泣きじゃくるルイズを受け止めて、才人は頬をそっと緩ませた。 それから落ち着いたルイズは、今日のことを反省して謝る。 「今回は、その……やりすぎたわ。そのせいで大変なことになったし……。悪かったって思ってる……」 「いいよ。お前のプレゼントのお陰で助かったしな」 「? まぁとにかく、もう今回のようなことはしないけど……その代わり、あんたも他の女の子に 目移りしちゃ駄目なんだからね! ちゃんと自省するようになること! いいわね!?」 「へーい」 二人の間の話がひと段落着いたところで、アンリエッタがアニエスを伴ってやってきた。 「使い魔さん、それにルイズも、こんなところに」 アンリエッタの顔を見た才人は、先ほどアンリエッタの言っていたことを思い出す。 「そう言えば女王陛下、俺たちに話があるって……」 言いかけた才人を制して、アンリエッタが告げる。 「そのことですが、使い魔さんも牢から出たことですし、場所を移すことにしましょう」 そうしてルイズと才人は、アンリエッタに客間へと通された。三人だけの内密の話ということで、 アニエスは席を外すことになった。 「姫さま……、いえ、もう陛下とお呼びせねばなりませんね」 場が改まると、ルイズの表情が引き締まり、恭しく頭を下げた。そうすると、アンリエッタが 悲しげに目を伏せて言いつける。 「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、 最愛のおともだちを取り上げてしまうつもりなの?」 「ならばいつものように、姫さまとお呼びいたしますわ」 「そうしてちょうだい。ああルイズ、女王になんてなるものじゃないわ。退屈は二倍。窮屈は三倍。 そして気苦労は十倍よ」 深くため息を吐くアンリエッタ。才人にはよく分からないが、より責任のある立場になったことで、 早くも苦労することが増えたのだろうと思った。 それからルイズは、黙ってアンリエッタの言葉を待った。戦勝祝いの日に、自分たちに 話があるとはどういうことなのだろう。しかし、アンリエッタは自分の目を覗き込んだまま、 何も言わない。しかたなくこちらから、「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」 と言ってみた。当たり障りのない話題のつもりだったが、アンリエッタは思うところがあったらしく、 ルイズの手を握った。 「あの勝利はあなたのおかげだものね、ルイズ。タルブ村に赴いて、侵略者の大軍を打ち滅ぼしたあなたの」 ルイズも才人も、驚いて目を見開いた。『虚無』の爆発は、巷ではゼロたちの攻撃だと思われているはずだ。 「ひ、姫さま、何をおっしゃるんですか? 確かにわたしはあの場にいましたが、わたしが 侵略者を滅ぼしただなんて、そんなことがあるはずが……」 とぼけようとしたルイズだが、アンリエッタには通用しなかった。 「光が消えた後、ウルトラマンゼロたちがしばし呆然とした様子でいたとの報告を受けています。 それが彼らの手によるものならば、戦闘中に立ち尽くしたりはしないでしょう。第一、あれほどの 攻撃が出来るなら、もっと早くに同じことをしていたはずです」 「うッ……ごもっともです……」 反論のしようがないほどの推理に、言葉を失うルイズ。 「また、タルブ村の住人に話を聞いたところ、光の起こる直前にあなたが杖を持って長い呪文を 唱えているようだったと証言する人がいました。ここまでの状況証拠がそろえば、あれがあなたの 魔法であることは簡単に導き出せます」 ぐうの音も出なくなっているルイズに、アンリエッタが告げる。 「多大な……、ほんとうに大きな戦果ですわ。ルイズ・フランソワーズ。あなたの成し遂げた戦果は、 このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類をみないほどのものです。本来ならルイズ、 あなたには領地どころか小国を与え、大公の位をあたえてもよいくらい。……けれどその前に、ルイズ、 あなたの魔法について、何か聞きたいことがあるのではないでしょうか?」 と聞かれては、ルイズはそれ以上隠し通すことができなくなった。才人はいいのか? といった顔で シャツの袖を引っ張ったが、構わずに切り出す。 「あの何も書かれていない始祖の祈祷書なのですが……姫さまより賜った『水のルビー』を 嵌めて開いたら、古代文字が浮かび上がったのです。それがあの光の呪文で……。 始祖の祈祷書には、『虚無』の系統を書かれておりました。それは本当なのでしょうか?」 アンリエッタは目をつむったあと、ルイズの肩に手をおいた。 「ご存知、ルイズ? 始祖ブリミルは、その三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺したのです。 トリステインに伝わるのがあなたの嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」 「ええ……」 「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家にあらわれると」 「わたしは王族ではありませんわ」 「ルイズ、なにをおっしゃるの。ラ・ヴァリエール侯爵家の祖は、王の庶子。あなたも、 このトリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」 ルイズははっとした顔になった。それからアンリエッタは才人の手をとり、ルーンを見て頷く。 「この印は、『ガンダールヴ』の印ですね? 始祖ブリミルが用いし、呪文詠唱の時間を確保するためだけに 生まれた使い魔の印」 才人は頷いた。 「ルイズ、あなたは間違いなく『虚無』の担い手。そう考えるのが妥当です。そしてこれで、 あなたに勲章や恩賞を授けることができなくなりました。理由はわかりますね?」 才人には見当がつかなかったので、正直に尋ねた。 「どうしてですか?」 アンリエッタは顔を曇らせて、答えた。 「わたくしが恩賞を与えたら、ルイズの功績を白日のもとにさらしてしまうことになるでしょう。 それは危険です。ルイズの持つ力は大きすぎるのです。今のわたくしたちが束になっても敵わない 怪獣、侵略者を上回るほどの力なのです。それが知れたら……、侵略者はルイズの存在を 許しておかないでしょう。ルイズを敵の的にすることはできません」 それからアンリエッタは、ため息を吐いた。 「敵は未知の世界からやってくる怪物だけとは限りません。同じ人間にも……、あなたの その力を知ったら、私欲のために利用しようとするものが必ずあらわれるでしょう」 ルイズはこわばった顔で頷いた。才人もアンリエッタの言い分を理解する。ウルトラマンが 地球人と必要以上に関わらなかったのと大体同じ理由か。ウルトラマンの力は強すぎるので、 その力で地球人の心を惑わさないように、ウルトラ戦士が地球の社会の中に入って防衛の任に 就いた時は絶対に正体を明かしてはならなかったとゼロに聞いた。 「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これはわたしと、あなたとの秘密よ」 と命じられたルイズは、しばらく考えた後に、決心したように口を開いた。 「おそれながら姫さまに、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」 「いえ……、いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ。 使えば使うほど、あなたの命が危うくなります」 「神は……、姫さまをお助けするために、わたしにこの力を授けたに違いありません!」 遠慮するアンリエッタに、ルイズが熱弁する。 「わたしは、姫さまと祖国のために、この力と体を捧げたいと常々考えておりました。そして今は、 史上最大といってもよいほどの未曾有の危機が世界を襲っています。姫さまはその脅威に立ち向かうために 尽力なさっています。そんな姫さまのお力にならないのは、わたしの貴族としての誇りを失うことになります。 それでも陛下がいらぬとおっしゃるなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」 アンリエッタはルイズのその口上に心打たれた。 「わかったわルイズ。あなたは今でも……、一番のわたしのおともだち。ラグドリアンの湖畔でも、 あなたはわたくしを助けてくれたわね。わたくしの身代わりに、ベッドに入ってくださって……」 「姫さま」 ルイズとアンリエッタは、ひし、と抱き合った。才人は相変わらず蚊帳の外で、ぼんやりと頭をかいた。 「ゼロ、これでいいと思うか? ルイズのやつ、安請け合いしやがって……」 小声でゼロに話しかけると、ゼロはこう意見した。 『はっきり言って危険だが……まぁ、ルイズ自身のことなんだ。俺たちがとやかく言ったって しょうがねぇさ。本当に危なくなった時は、俺たちで助けてやろうぜ』 「結局そうなるのか……。ほんと、世話が焼けるな」 はぁ、とため息を吐いていると、ルイズとアンリエッタの話が再開する。 「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」 「当然ですわ、姫さま」 「ならば、あの『始祖の祈祷書』はあなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。 決して『虚無』の使い手ということを、口外しませんように。また、みだりに使用してはなりません」 「かしこまりました」 「これから、あなたはわたくし直属の女官ということに致します」 アンリエッタは羽ペンをとると、さらさらと羊皮紙になにかしたためた。それから羽ペンを振ると、 書面に花押がついた。 「これをお持ちなさい。わたくしが発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外への あらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ、 仕事もしにくいでしょうから」 ルイズは恭しく礼をすると、その許可証を受け取った。 「あなたにしか解決できない事件がもちあがったら、必ずや相談いたします。表向きは、 これまでどおり魔法学院の生徒としてふるまってちょうだい。まあ言わずともあなたなら、 きっとうまくやってくれるわね」 それからアンリエッタは才人に向き直り、ポケットにあった宝石や金貨を取り出すと、 それをそっくり才人に握らせた。 「これからもルイズを……、わたくしの大事なおともだちをよろしくお願いしますわね。 優しい使い魔さん」 「そ、そんな……、こんなにたくさん受け取れませんよ」 才人は手に持った金銀宝石を見て、あっけにとられた。 「是非、受け取ってくださいな。ルイズの使い魔として、彼女を守る危険な役目を果たす あなたへのせめてもの手向けです。ルイズとともに国に尽くしてくれるのならば、 報いるところがなければなりませぬ」 俺はそう誓った訳じゃないんだけど……と才人は一瞬思ったが、ルイズの手前、断ることは出来ない。 仕方なく、金貨と宝石をポケットに突っ込んだ。 才人とルイズは、並んで王宮を出た。 「まったく……、お前ってば安請け合いしやがって……」 「どういう意味よ」 ルイズが才人を見上げてにらむと、才人は小言を唱え出した。 「侵略者を相手にすることがどれだけ危険なことか、分かってないだろ。あいつら、ほんと 容赦ってものがないんだぞ。変にしゃしゃり出ないで、ゼロたちに任せてればよかったのに」 「そんな言い方することないじゃない! わたしの姫さまへの忠義心を馬鹿にするつもりなの!?」 口喧嘩に発展しそうになるところに、ゼロが割り込んで二人をなだめた。 『まぁまぁ、今更言っても仕方ねぇだろ。それに悪いことばかりじゃない。姫さまからもらった 許可証があれば、才人の状態のままでも何かと活動できるぜ』 「そうだな。ある意味じゃ、俺たち、公的機関と同じになったってことだよな。そう考えると、 地球防衛隊の一員になったみたいでいい気分だ! 実は憧れてたんだよ」 『このまんま、将来ZAP加入を目指したらどうだ? あそこには俺も何度か世話になったことがあるんだ』 自分を置いて勝手に盛り上がる才人とゼロに、ルイズは頬を膨らませる。二人が頼りにしているのは アンリエッタからの許可証で、自分のことは相変わらずただの女の子と思っているみたいだ。 せっかく『虚無』の魔法が開眼したのに……と不満を隠せなかった。 なんてことをしながらブルドンネ街の大通りを歩いていると、才人がふと、道端の露店の一つに目を留めた。 才人が見つめているのは、地面に並べられたアルビオン軍からの分捕り品であった。おそらく捕虜を 管理する兵隊が、商人に流したものであろう。その中の一着の服を手に取った。 「服が欲しいの? どうせ着るんならそんな敵が着ていた中古じゃなくて、もっといいの着なさいよ」 ルイズの言葉を、才人は全く聞いていない。服を手にしたまま、ぷるぷると震えている。 「お客さん、お目がたけえ。それはアルビオンの水兵服でさ。安いつくりだが、便利にできてる。 こうやって襟を立てれば、風をみることだってできる」 水兵服の価値など、ルイズとゼロには分からなかった。だが、才人は違った。彼の頭の中には、 この服の利用価値がしっかりと存在した。そしてそれは、ハルケギニアにはない形のものだった。 「いくら?」 「三着で、一エキューで結構でさ」 ルイズはあきれた。こんな中古、お金をもらったっていらないぐらいである。 しかし才人はそれを、言い値で買い込んだ。 この時買い取った水兵服……要するに『セーラー服』が、とんでもない事態を招くことになるとは、 この時誰も、才人にだって予想は出来なかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/nicomment/pages/81.html
ゼロの使い魔~三美姫の輪舞~ 第01話 「使い魔の刻印」 第02話 「森の妖精」 第03話 「英雄のおかえり」 第04話 「噂の編入生」 第05話 「魅惑の女子風呂」 第06話 「禁断の魔法薬」 第07話 「スレイプニィルの舞踏会」 第08話 「東方(オストラント)号の追跡」 第09話 「タバサの妹」 第10話 「国境の峠」 第11話 「アーハンブラの虜」 最終話 「自由の翼」 OVA 「誘惑の砂浜」 ※ここに記載の情報は放送当日または翌日の情報です。 第01話 「使い魔の刻印」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm3882990 23 40 60369 28169 sm3881649 24 00 6305 4654 sm3881696 24 49 2455 410 第02話 「森の妖精」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm3957190 24 00 5049 4007 sm3957538 24 00 1824 799 sm3958509 24 00 1569 390 第03話 「英雄のおかえり」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4027764 23 39 14923 4713 sm4027060 24 00 6293 3806 第04話 「噂の編入生」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4103108 24 00 5449 5399 sm4103867 24 00 7073 3826 sm4103560 23 39 5682 3629 第05話 「魅惑の女子風呂」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4176743 24 00 4552 3604 sm4177102 24 00 2928 1199 sm4178061 24 00 2165 798 第06話 「禁断の魔法薬」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4250615 23 59 5909 3848 sm4252168 23 59 2240 549 sm4251204 24 01 2019 481 第07話 「スレイプニィルの舞踏会」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4326010 24 00 4079 3301 sm4326533 24 00 2937 1241 sm4326537 24 00 1859 571 第08話 「東方(オストラント)号の追跡」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4404086 23 59 7646 3785 sm4410713 24 02 2969 800 sm4407065 23 59 1738 515 第09話 「タバサの妹」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4483260 24 00 6898 2908 sm4483781 24 00 2544 396 sm4483409 24 00 2310 354 第10話 「国境の峠」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4556148 23 59 6035 2470 sm4556617 24 00 3098 646 sm4557715 24 00 1887 322 第11話 「アーハンブラの虜」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4628008 24 00 3345 1450 sm4627995 24 00 1618 1319 sm4627874 24 00 987 671 最終話 「自由の翼」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm4702443 23 45 4850 1931 sm4702604 23 45 1763 1074 OVA 「誘惑の砂浜」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm5661448 23 26 310 195
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9316.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十五話「悪魔の住む学院」 宇宙細菌ダリー 登場 「サイト! サイトったら!」 寮塔の自室で、ルイズがいつにも増して荒い語調で才人を呼んだ。 「何だよ?」 「何だよ、じゃないわよ! そこ、見てみなさい!」 ルイズが指し示した先は、部屋の一角に敷かれた畳。その縁が少々埃を被っている。 「そこ、埃まみれじゃない! あんた、タタミの上で招待状書いてるんでしょ? よく埃だらけの とこで作業できるものね!」 「えぇ? 別に、まみれてるってほどじゃないだろ」 「口答えしないッ!」 反論するときつく叱られ、才人は思わず首をすくめた。 「ちゃんと掃除しなさいよ! 不潔ね!」 「掃除ならシエスタがしてくれてるじゃないか。あー……でも、最近は俺たちの手伝いで 忙しくさせてるから、そっちに手が回り切ってないのか」 「だからこそ、あんたがしっかりしないと駄目なんでしょ!? 最近忘れてるみたいだから はっきりさせておくけど、あんたはわたしの使い魔よ! シュヴァリエになっただか何だか 知らないけど、その領分を忘れるんじゃないわよ!」 あまりにルイズが一方的に叱りつけるので、才人はむっと目くじらを立てた。 「おい、そんなきつく言うことないだろうが。ちょっと埃が残ってるってだけのことで」 「うるっさい! 口答えするなって言ったでしょ!?」 「何だとぉ!? 偉そうにしやがって!」 「偉いのよ! わたしはあんたの主人なんですからねッ!」 ギャアギャアと喚き合うルイズと才人。その様子を傍からながめているリシュがつぶやく。 「ルイルイ、何だか荒れてるね……」 そのひと言にデルフリンガーがこう返した。 「まぁな。ここのガキどもの説得が失敗して、焦りからイライラしてんだろ。期限ももう明日だしなぁ」 中止の危機にある舞踏会をどうにか開催させようと、ルイズは生徒たちを説得して回ったのだが、 それは失敗に終わったのだった。当の生徒たちからの反応が芳しくなく、とても反対を取り消して もらえそうにない。そんな状況だというのに、期限となる虚無の曜日がもう明日にまで迫っているのだ。 解決の目途も一向に立たない現状のままでは、せっかく色々準備をしてきた舞踏会が水の泡となってしまう。 今日のルイズは、焦りが募るあまりにひどく不機嫌なありさまなのだ。だから、才人に厳しく当たっている。 「気持ちは分からなくもねーけどよ、何も相棒に当たらなくてもとは思うぜ。全く、娘っ子は 性格がきついのが欠点だよな」 「……」 呆れて息を吐くデルフリンガー。リシュの方は、ルイズと才人の口喧嘩をじっと見つめている。 「ちっこいの、あのしょうもねぇ争いは観察するもんじゃねぇぜ」 デルフリンガーが諭したが、それでもリシュは二人を――特にルイズの方をじっくり見続けていた。 それから放課後。ルイズたちは現状の打開のために、皆で集まって話し合いをしたのであった。 「はぁ……これが最後のチャンスね」 話し合いを済ませてからの解散後、ルイズはとぼとぼとした足取りで寮塔に戻る道すがら、 ため息混じりにひと言つぶやいた。 彼女らはどうしても舞踏会を行うために、タバサの提案した最後の博打に賭けることにした。 それは、生徒たちを一箇所に集めて、一挙に説得――舞踏会への想いを語りかける演説。 個々に説得しても効果が薄いのならば、演説という演出を用いて一度に全員の感情に訴えかけるのだ。 実際に演説をする役目は、クリス自身。王族なので演説の心得もあると、自ら志願したのだ。 ルイズたちは明日まで出来るだけサポートをするが、本番では見守ることしか出来ない。 当然、これが成功する保証などどこにもない。この演説も失敗に終わったら、その時こそ本当に 舞踏会は中止だ。そのためルイズは、非常にやきもきした気分になっているのだった。 「このチャンスを物に出来なかったら、今度こそどうしようもなくなるわ。でも、成功するか どうかなんて全然わかんない。はぁ、心配だわ……」 不安にまみれながら自室の前までたどりつくルイズ。と、その時、 「あら……?」 自室の扉の前に、何やら花のようなものが落ちているのが目に入った。それを拾い上げるルイズ。 「何かしら、これ。見たことないような花だけど、誰がこんなところに……」 銀色の、茎のない花弁。それを顔に近づけてながめたり、香りを嗅いだりと観察するルイズだが……。 「あッ……」 唐突に、その身体がぐらりと傾いて、その場に崩れ落ちた。 後から戻ってきた才人が目にしたのは、倒れたままのルイズの姿だった。 「!? ルイズ! おい、どうしたんだ!」 気が動転した才人がルイズに駆け寄り、揺り動かそうとするのをゼロが制止した。 『動かすんじゃない、才人! 頭を打ってるかもしれねぇ! ひとまず落ち着いて、俺の指示に従え!』 「あ、ああ……」 ゼロの呼びかけで、才人はいくらか冷静さを取り戻した。 それからルイズの側に、銀色の花のようなものが落ちていることに気がつく。 「こいつは……? こいつのせいでルイズは倒れたのか?」 『! そいつに迂闊に触るな!』 手を伸ばしかけたら、またもゼロに止められた。 ゼロは銀の花を注視し、焦燥した声を出した。 『こいつは……!』 倒れたルイズはベッドの上に寝かされたら、一向に目を覚ます気配がない。彼女の寝顔を 心配そうに見下ろす才人とシエスタ。 「ねぇ、ルイルイ、どうしちゃったの? まだお休みには早いよ?」 リシュは事態を呑み込めていないようで、あどけない口調で尋ねた。すると、才人が諭すように 言い聞かせる。 「リシュ、ルイズはちょっと病気みたいなんだ……」 「えッ、そうだったの……? ルイルイ、大丈夫なの?」 「いや、大丈夫さ。俺たちが看病するからな。でも、リシュに病気が移ったらいけないから、 少しの間別のところに行っててくれ。何、病気が治ったらすぐに呼びに行くから」 「分かった……。お兄ちゃん、ルイルイのことお願いね。病気、早く治してあげてね」 うなずいたリシュは、才人の言う通りに退室していった。 それを確認してから、才人がテーブルの上に置いた銀の花についてゼロに問いかける。 「それでゼロ、あの花のようなのは何だ? ルイズは、一体どうしちまったんだ?」 『才人もシエスタも、あれに顔を近づけるなよ。あの中にいる奴を吸い込んじまったら、 お前たちもルイズのようになってしまう』 シエスタが首を傾げる。 「あの中にいるもの、ですか? わたしには何もないように見えますが……」 『目に見えないほど小さい奴がいるんだよ。その一匹をルイズは吸い込んじまったから、 こうなったんだ』 そう語ったゼロは、花の正体を告げる。 『あれは花じゃねぇ。卵の殻だ。宇宙細菌ダリーの卵のな』 「宇宙細菌!?」 『ああ。親父から聞いたことがある。生物の体内に潜り込んで、血液を根こそぎ奪っちまうってな。 ジャンボット』 ゼロがジャンボットに呼びかけると、ルイズの容態を検査したジャンボットは次のように報告した。 『ゼロの言う通り、ルイズの血中のフィブリノーゲンが急激に減少している。また、肺の中に ハルケギニア外の生物が潜伏している。確かにルイズはダリーに寄生されてしまっている! このままでは、ルイズは失血死してしまうぞ』 シエスタの腕輪から立体映像が浮かび上がった。映っているのは、ピンク色のダニのような 怪物の姿。拡大したダリーの写真だ。 「ミス・ヴァリエールの体内にこんな怪物が……! 退治する方法はないんですか!?」 『その手段はたった一つだけだ』 ゼロがそれを告げる。 『ミクロサイズまで縮小した俺と才人がルイズの体内に乗り込んで、直接ダリーをやっつけることだけだ!』 「ええ!? ゼロさんって、大きくなるだけじゃなく小さくなることも出来るんですか!?」 初めて知る事実に、シエスタは驚愕した。もっとも、大きくなれるのだったら反対に小さくなることが 出来ても不思議ではないのかもしれないが。 『普段はやらないことなんだがな。それに、この手段は大きな危険が伴う。当たり前だが、 人の身体の中じゃいつものような戦い方は出来ねぇ。力のほとんどをセーブする、非常に大きな ハンデを背負うことになるんだ。才人、その危険の中に飛び込んでもお前は構わないか?』 問われた才人は、力を込めて即答した。 「ああ! ルイズは何だかんだ言って、これまでずっと苦楽をともにしてきた大事な仲間だ! 命を救うためだったら、どんな危険だって怖かないぜ!」 『ふふ、今更聞くまでもねぇことだったな。よぉし、それじゃあ行こうぜ!』 才人は即座に顔にゼロアイを装着し、ウルトラマンゼロに変身。そしていつもとは反対に、 肉体を縮小化させる。 「ジュワッ!」 パンくずよりも更に小さくなったゼロは飛翔し、ルイズの鼻の穴から体内に飛び込んだ。 その一部始終を見守っていたシエスタが、不安を抱えてジャンボットに尋ねる。 「サイトさん、ゼロさん、無事にミス・ヴァリエールを助けられるでしょうか……?」 『心配無用と言いたいところだが、さすがに不確定要素が大きい。だが、今回ばかりはさすがに 我々も助太刀することは出来ない。人の内部に入っていけるのはゼロだけだ……』 ジャンボットは元より、ミラーナイトもグレンファイヤーも縮小化までは出来なかった。 そのためゼロがどんなピンチに陥ったとしても、彼らには助ける術がないのだ。 『せめて、二人の無事の帰りを祈ろう……』 シエスタとジャンボットに出来るのはたったそれだけで、そのために二人はゼロの帰還を 強く祈ったのだった。 ルイズの体内に飛び込んでいったゼロは、そのまま器官を抜けて一直線に肺の中まで。 そこで肺胞の壁に張りついているダリーの姿を発見した。毛細血管にハサミ型の牙を突き刺し、 血液を吸い上げている。 「キィィィッ!」 『見つけたぜ! せぁッ!』 着地したゼロはビームランプから、ルイズの肺を傷つけないようギリギリまで威力を落とした エメリウムスラッシュでダリーの背面を射撃した。驚いたダリーは壁から剥がれ、ボテッと落下する。 「キィィィッ!」 しかし威力を出せないために、ダリーにさしたるダメージはない。ガチガチと牙を鳴らして ゼロを威嚇する。 「セアァッ!」 ゼロはダリーに飛びかかり、チョップの連打を食らわせるが、あまり効果は見られずに ダリーに振り払われた。 『くッ……やっぱ力を出せねぇと、大してダメージを与えられねぇぜ……!』 今いる場所は、臓器でも特に重要なものの一つ、肺。もし傷つけてしまったら、ルイズは まともな呼吸が出来なくなって命に危険が生じる。そのため打撃だけでも、周りの細胞を 壊さないように細心の注意を払わなければならない。 ゼロがこんなにも苦心しているのに、ダリーの方はそんなことお構いなしと言わんばかりに 容赦なく反撃してくる。口から溶解液を吐き出して、ゼロを攻撃してくる。 『ぐわあぁぁッ……!』 溶解液をまともに浴びて、泡だらけになって苦しむゼロ。普段の戦い方が全く出来ない環境下では、 彼も大いに苦戦を強いられるのである。 『ぐッ……親父はどうやってこいつを倒したんだ……。もうちょっと詳しく話を聞いておくんだった……』 そんな後悔をしても遅い。ゼロはなす術なくダリーに追い詰められていく。 「くッ、うぅッ……!」 体内での戦闘は、ルイズの容態にも影響を与えていた。ダリーの吐く溶解液がルイズ自身にも ダメージを与えて、彼女はひどくうなされる。 「み、ミス・ヴァリエール……! しっかりして下さい……!」 ルイズの手を握って呼びかけるシエスタだが、彼女に出来るのはその程度。見ているだけしか 出来ずにもどかしさを感じる。 この時、外から扉がノックされた。 「ど、どなたでしょうか?」 入ってきたのは、意外にもモンモランシーであった。 「ミス・モンモランシ! どうしてこちらに……?」 「ルイズが急病って聞いたの。それで、ルイズの様子はどうなの?」 部屋の前で倒れていたからか、噂は既に学内に広まっているようであった。ルイズの容態を 軽く確かめたモンモランシーは眉をひそめる。 「大分良くないみたいね……。これが効くといいんだけれど……」 と言って、モンモランシーは液体の満ちた小瓶を取り出す。 「ミス・モンモランシ。こちらは何でしょうか?」 「身体の抵抗力を高める水の秘薬よ。我が家に伝わる魔法薬の一つで、わたしも熱を出した時は よくお世話になったわ」 それをわざわざ持ってきてくれたようだ。シエスタはモンモランシーの厚い友情に内心感動を覚える。 「ありがとうございます、ミス・モンモランシ! 早速ミス・ヴァリエールに飲ませて差し上げましょう」 モンモランシーは小瓶の蓋を開けると、ルイズの頭を少し起こして、かすかに開いた口に 秘薬を注いでやった。 飲まされた秘薬はすぐに効果を発揮し、ルイズの体内に魔法の輝きが満ちて免疫力が上昇していく。 「キィィィッ……!」 するとどうだろう。ルイズの身体に害を為すダリーは生命の反撃を受け、その力が徐々に 鈍っていった。これにより溶解液も途切れ、ゼロは攻撃から解放される。 反対にゼロは秘薬の恩恵を受け、力を取り戻していった。 『ルイズの病原体への免疫が増していってる……そうだ、これだ!』 秘薬の効果を見たゼロは、ダリーを撃破する方法を閃いた。 そして両手の平を合わすと、その隙間よりシャボン玉のような泡を飛ばし始めた。これはゼロの肉体の 免疫細胞を泡の形で発射する、ウルトラバブルだ。 これを食らったダリーは瞬く間に肉体が溶け、崩壊していく。先ほどとは正反対の状態だ。 「キィィィッ!!」 結局ダリーはこの攻撃にまるで太刀打ちできずに、ほどなくして完全に溶解、殺菌されたのであった。 『やった! これでルイズは助かるんだな!』 才人が安堵の息を吐いたが、次いで疑問の声を発した。 『けれど、ダリーの卵を学院内に持ち込んだ奴は誰なんだ? 誰かがたまたま持ってきて、 たまたまルイズの部屋の前に落としていったなんてことはないよな……』 『……』 ゼロはその疑問に、意味深に黙したまま答えなかった。 こうしてルイズの身体からダリーは駆逐され、ルイズは助かったのだが、失った血液を取り戻すまでは 安静にしていなければならなかった。このためにルイズはしばらくの間大人しくなり、この間才人が 怒りの感情をぶつけられることはなかった。 ルイズの件はそれで片づいたとして、肝心の演説である。この翌日にクリスは集められた 生徒たちを相手に己の想いの丈をぶつけた。その際の反応は、今一つ芳しいものではなかったので、 才人はいよいよ駄目かと一時は覚悟もした。 しかし演説が終わってから、風向きが一変した。ギーシュとモンモランシーがここぞとばかりに 舞踏会の賛成を訴えかけると、生徒たちがチラホラと二人に感化され、反対を撤回する声が次々と 上がったのだ。クリスの想いはちゃんと彼らに届いていて、ギーシュたちの行動で彼らの迷いが 払拭されたのだ。この時ほど、才人が友情の尊さを感じたことはなかった。 そうして生徒たちの多くが賛成に転向したことで、オスマンも中止を取り消してくれた。 期限ギリギリの、本当に瀬戸際であったが、舞踏会は遂に開催の運びとなったのだ。それが 決まった時の才人やクリスらの喜びといったら、ひと言ではとてもではないが言い表せない ほどのものであった。 「……いやぁ、サイトくん、本当にありがとう。お嬢のために色々と働きかけてくれて。 これでお嬢も、この学院でいい思い出を作ることが出来そうだよ」 「いや、いいんだよ。俺も何かと大変だったけど、楽しくもあったしさ。それに、舞踏会は これからが本番なんだ」 この日の晩、才人は中庭でデバンにお礼を言われていた。ルイズの部屋に帰る途中で彼に捕まって、 今こうして話をしているのだ。 「サイトくんには、前にお嬢が周りと馴染もうとしない理由とか話したよね。あれはお嬢のためを 思って言ったんだけど……どうやら、サイトくんの方がお嬢の気持ち、よっぽど分かってたみたいだね」 「分かってたのは、デバンも一緒だろ。ただ俺の方が、この世界のしがらみとか関係ないから 無茶できるだけでさ」 「その無茶のお陰で、あんなに嬉しそうなお嬢の顔を見られた訳だ。これ、ちょっと自慢しても いいことだと思うよ?」 「そ、そうかな?」 称賛されて少しばかり照れる才人。と、デバンはそこまでで話題を切り換えた。 「ところで、さっき君たちの部屋から小さな女の子が出てくるのを見たんだけどさ、ありゃ誰だい?」 「あッ、そういえばリシュのこと、知らなかったっけ」 「へー、リシュっていうの。あの子、何者なんだい。まさかこの学院の生徒じゃあないよね」 「えっと……」 才人はリシュのことを、分かっている限りでデバンに打ち明けた。クリスのことを色々 教えてくれたのだから、こちらからも情報を提供しても構わないだろうという判断だ。 「……地下室にねぇ」 頻りにうなずいてつぶやいたデバンは、才人にこう尋ね返す。 「その子、何かおかしなこと言ったりしない?」 「おかしなこと?」 「そうさねぇ、たとえば夢がどうのこうのとか」 才人は、デバンが何故そんなことを聞くのかがよく理解できなかった。 「別にそんなこと言ってないけど」 「ふーん、そう……」 「何か知ってるのか? もしかして、前に言ってたクリスの使命に関係ありそうとか?」 クリスが本来、何らかの使命を帯びて学院にやってきたとデバンが説明したことを思い出す 才人であった。が、デバンは否定する。 「いやいや、それは考えすぎだよ」 「でも……」 「仮にあったとしても、私はあくまで使い魔だからね。前にも言ったけれど、そういう重大な ことは勝手には話せないよ。お嬢が必要だと感じた時には、お嬢から君に打ち明けるさ」 それでデバンの話すことは終わりであった。 「ちょっと話し込んじゃったかな。ともかく、今回はお嬢のこと、本当に感謝してるよ。 それじゃあ、また明日ね」 別れの挨拶を告げて、デバンはひょこひょことクリスの下へ帰っていく。その後ろ姿を 見送った才人は、ゼロにそっと呼びかけた。 「なぁゼロ、デバンの奴、ホントはリシュのこと、何か知ってるんじゃないかな。夢のこと聞いてきたし」 ここのところ、どうにも奇妙な夢を連続して見るので、尋ねられた際には少しばかりドキッとしたのだった。 『……さぁな。俺にも分からんね』 ゼロはそう返したが、語調には何か含みがあるようでもあった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/orikyara3rd/pages/519.html
作者:邪魔イカ 『黒軍に所属する2年生。騎馬兵隊所属。美しい金髪に赤眼。お人好しな性格で使用武器はチャクラム。背中に刺青がある。』 【ジャイロ】黒軍所属の2年生。騎馬隊の一人で馬術に長けている。白皮症(要するにアルビノ)のため肌が異様に白く、目が赤で髪はブロンドである。元は暗器の使い手で、馬術と組み合わせた特殊な戦法を編み出す。背中に刺青があるが人には見せたがらない。お人好しな性格で人を殺すことに抵抗を示している。ただ軍人として戦わない訳にもいかないので、戦闘時はあくまで「相手を撤退させる」ことに重きを置いている。ジャイロは渾名で、本名は「蛇穴 いろは(さらぎ いろは)」という。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4205.html
前ページ次ページゼロの使い魔はメイド キュルケとの軽い悶着後。 ルイズはシャーリーを伴い、いざ朝餉におもむかんと食堂に行ったのだが。 (しまった……) と、ルイズは無駄に豪華な朝食を前にしばし考えていた。 (この子の食事、どうしよう?) 普通使い魔の食事は学院が用意してくれるが、シャーリーは平民とはいえ、れっきとした人間である。 まさか他の使い魔連中と同じように扱うわけにいかぬ。 かといって、同じ席で同じものを食べさせるというわけにいかない。 貴族と平民は違うのだ。 ルイズはちらりと後ろに立っているシャーリーを見る。 ちょこんと横にひかえたシャーリー、ごく普通にしていた。 空腹でないわけではないだろうが、自分がルイズと同じ席で同じものを食べるなどという発想は最初からないようだ。 それがここハルケギニアでは普通なのだが。 もしもこれが、もっと別の時代の、別の時代の国の少年なんかであれば、自分もご相伴に預かれると思い込み、はしゃぎまわっていたかもしれぬが。 (後で、メイドにでも頼んでおけばいいかな?) そう考えてから、始祖ブリミルへの感謝をささげた後、ルイズは朝食をとる。 朝食後、シャーリーの入れてくれたお茶を飲んで、ほっと息を吐いてから、 「ちょっと、あなた」 近くを通る黒髪のメイドに声をかけた。 「はい、なんでしょうか?」 メイドはルイズを振り返った後、シャーリーを見て、あらという顔をする。 もう顔を知っているのだろうか? シャーリーを見ると、 「お洗濯の時に……」 なら、話は早い。 ルイズはふむとうなずき、 「ちょっと頼みたいんだけど――」 ルイズはシャーリーの食事をシエスタに頼むと、席を立ち上がった。 「シャーリー、あなた朝ごはんまだでしょ? 今のうちに食べてきなさい。終わったら教室にくるのよ。場所はそのメイドにでも聞いて。それから……」 と、ルイズはシャーリーの服装を見て、 「ついでにメイド服に着替えてきなさい」 「――はい」 メイド服、という言葉にシャーリーはかすかに反応したようだった。 (? まあいいわ) 「それじゃ、後よろしく」 そうシエスタに言って、ルイズはすたすたと食堂を出て行った。 「なんだ、シエスタその娘っこは?」 厨房に連れて行かれたシャーリーを出迎えたのは、コック長の怪訝そうな声だった。 「あの、この子はミス・ヴァリエールの……」 「おおう、平民の使い魔ってのは、この子か?」 コック長のマルトーはシャーリーを見ながら、 「まだ子供じゃねえか、こんな子を……。ったく、これだからメイジってやつらは……」 不機嫌そうに鼻を鳴らすマルトーに、シャーリーは脅えたように表情を暗くする。 それに気づいたマルトーはあわてたように振って、 「おっと、別にお前さんに怒ってるわけじゃあねえんだ。気にしねえでくれ。朝飯がまだ? そうか、簡単な賄いしかねえが、食ってきな」 「ありがとうございます」 シャーリーが礼を言うと、 「なぁに、いいってことよ」 マルトーは照れたように笑ってみせた。 「何か困ったことがあったら、俺でもいい、シエスタでもいい。いつでも相談しな」 「はい」 シャーリーは安心したように、かすかに微笑んだ。 簡素な食事をすませた後、シャーリーはシエスタにある部屋に案内される。 シエスタが他のメイドと一緒に使っている寝室。 「あらあら、かわいらしいこと」 シエスタは楽しそうに笑った。 部屋に設置された大きな鏡の中、メイド服に着替えたシャーリーが映っている。 「ちょうどサイズが合うのがあってよかったわ。ここではあなたくらいの年のメイドっていなかったから、服あるかなって思ってたんだけど」 シエスタはシャーリーの肩に手を置いて、鏡の中の小さなメイドを見る。 「……」 シャーリーは鏡をじっと見ている。 緊張したように表情は少ないが、嬉しそうな様子だった。 「それじゃ、ちょっと替えの服持ってくるわね」 「……」 シエスタが出て行った後も、シャーリーはしばしぼうっとしていたが、 「……」 おもむろに、くるりと体を回転させた。 スカートが、ふわりと舞う。 「………」 シャーリーはスカートを見下ろして、表情を一変させた。 花のような笑顔とは、このことであろうか。 さらに、もう一度。 じーん。 そんな擬音が聞こえてきそうな表情だった。 かすかに紅潮した頬が、少女の感動の強烈さを物語っているようだった。 シャーリーは何度もくるりと舞ったり、スカートの裾をつまんだりしていた。 すっかり夢中になっているところに、 「シャーリー、お待たせ……」 シエスタが予備のメイド服を手に戻ってきた。 「……」 鏡の前、裾をつまんでポーズをとっていたシャーリー。 立ち尽くすシエスタ。 THE WORLD 数秒経過。 そして、時は動き出す。 「……すみません。その、スカートがぶわっと……。こういうのに憧れてたので……」 「そ、そうなの」 シエスタは内心、 (そんなことが、あそこまで嬉しいなんて……) 暗い過去を背負っていそうだなあ。 照れまくるシャーリーを見て思った。 と、 ドンと、どこかで何かが爆発したような音が響いた。 「今の……」 驚くシャーリーに、 「多分ミス・ヴァリエールね……」 シエスタは苦笑した。 シャーリーが教えられた教室へと向かってみると、中はもうメッチャクチャだった。 教室の中で爆弾でも使用したかのような惨状。 ルイズはその中に一人で立ち、黙然としていた。 「あ、あの……」 何か近寄りがたい雰囲気ながら、シャーリーは思い切って声をかける。 「シャーリー」 ルイズは振り返らずに言った。 声が、ひどく硬い。 「はい」 「教室の中を片づけるの、手伝って」 「はい」 シャーリーはそれ以上何も言わず、掃除をはじめる。 器用な手つきで、ゴミを片づけ、床をはいていく。 広い教室なのでそうそうすぐには終わらないが、それでもシャーリーは手早く掃除を行っていく。 「何も聞かないの?」 のろのろと机をふいたりしていたルイズは、やはりシャーリーの顔を見ずに言った。 「……」 「私、どんな魔法を使っても爆発させちゃうの……。今日もそれで、この有様」 と、ルイズは教室を見る。 「おかしいわよね。魔法の使えない貴族なんて。召喚魔法は、サモン・サーヴァントやコントラクト・サーヴァントが成功したのに…………」 「……」 「……そっか。あんたは、魔法のないとこからきたんだっけ?」 「はい」 「シャーリー」 かすかに震える声で、ルイズは言った。 「はい」 「しばらく、私のほう見ないでね」 小さな声でルイズは懇願した。 背中を向けたその表情はシャーリーには見えない。 ただ、その肩はかすかに震えていた。 「はい」 シャーリーは、静かにうなずいた。 「シャーリー」 またしばらくして、ルイズはシャーリーを呼んだ。 「はい」 「ありがとね……」 「……いいえ」 ようやく片づけが終わった頃、時刻はもう昼にさしかかっていた。 少しばかり目を赤くしたルイズは、シャーリーと一緒に食堂へやってきた。 そして、朝と同じく何事もなかったような顔で食事を取り始める。 シャーリーは朝と違ってメイド服なのでひかえている姿はまったく違和感がない。 食事も終盤に差し掛かる頃、デザートが配られ始める。 色々と種類があって好きなものを選べるようになっているらしく、メイドたちがそれぞれ学生たちに言われるものを配っていく。 「何をお取りしましょう?」 お茶を入れてから、シャーリーはルイズに尋ねる。 「クックベリーパイ持ってきて」 「はい。ただ今」 シャーリーはデザートを配っているメイドたちのほうへ歩いていく。 と、その途中で談笑している少年が、ポケットから小壜が落ちるのが見えた。 「あの、落とされましたよ?」 シャーリーは拾って少年に渡そうとする。 「あ、ああ。ありがとう」 少年は一瞬ぎくりとした顔になるが、すぐに何食わぬ顔で受け取った小壜を素早くポケットにしまいこむ。 が、まわりの仲間は目ざとくそれを見とがめて、 「おい、今のはモンモランシーの香水じゃないか?」 「ああ、そうだが――。しかし、誤解のないように言っておくけれど……」 少年は何やら弁解しようとするが仲間は怒涛の勢いで、 「あの鮮やかな紫は、モンモランシーが自分のためだけに特別に調合する香水だ。間違いない」 ちょっと小太りの男子が大声で言った。 鈍重そうな容姿のわりに、変なところに目がきくらしい。 「そうだ! ということはだ。お前は今モンモランシーと付き合っている、とこういうわけだな?」 他の連中も面白そうに囃し立てる。 「違う。だから、彼女の名誉のためにも言っておくが……」 少年はなおも言い募ろうとするが、もはや周囲は聞く耳持たない。 と、そこに一人の少女が青い顔で近づいてくる。 「ギーシュさま、やっぱり……ミス・モンモランシーと」 「いや、これは。その、誤解だ」 「その香水が何よりも証拠です」 「違うよ、ケティ僕の心の中にいるのは君だけ……」 ぱぁん。 小気味のいい音が響く。 少女の手のひらが、少年の頬を張ったのだ。 「さようなら!」 少女は泣き顔で叫び、走り出してしまった。 「邪魔よ!!」 八つ当たり気味に、シャーリーを突き飛ばして。 よろけるシャーリーだが、どうにか踏ん張って持ちこたえる。 だが、そこに金の巻き毛が特徴的な少女がずかずかと近づいてきた。 「邪魔よ、どきなさい!」 巻き毛はシャーリーを押しのけてギーシュの前に立ちはだかる。 「やっぱり、あの一年生に手を出してたのね……?」 「待ってくれ、モンモランシー……これはだね」 少年はきざだが必死な様子で花の浮くような台詞を並べるが、巻き毛は何も言わずにテーブルのワインをひっつかみ、少年の頭に洗礼を与えるがごとくふりかける。 「この、うそつき!」 一声叫んで巻き毛の少女は行ってしまった。 去り際に、浮気な交際相手に張り手の贈りものをして。 見事なまでの醜態をさらした後も、少年はハンカチで顔を拭きながら、 「彼女らは、薔薇の存在意義を理解していないようだ」 などと、ほざいていた。 シャーリーは動揺しながらも、そそくさとその場を離れようとする。 あまりお近づきにはならないほうがよさそうだと判断して。 「待ちたまえ」 「は、はい」 少年に呼び止められ、シャーリーはぎくりとして足を止める。 「君、君が軽率に壜を拾っておかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね」 「え……」 まさか、こんな風に言われるとは思わなかった。 「……も、申し訳ありません」 理不尽である。 だが、シャーリーのような少女に学生とはいえ魔法使いで貴族という相手に反抗できる術などあるわけもない。 謝るしかなかった。 がたん。 その様子を見ていたルイズは、顔をしかめて椅子から立ち上がった。 (しまった……) しばらくは傲然とシャーリーを見ていた少年だが、いくらか冷静になると我がことが省みられるようになってきたのか、ばつの悪そうな顔になってくる。 そこに。 「ちょっとギーシュ、何言いがかりつけてるのよ!!」 ルイズが大声で怒鳴り、シャーリーをかばい少年――ギーシュの前に立ちふさがる。 「さっきから聞いてれば、二股かけたあんたが悪いんじゃないの! か弱いメイドに八つ当たりするなんて最低よ!!」 「う……!」 その言い様にムカッとくるギーシュだが、ルイズの後ろで青くなっているシャーリーを見ると、事実を素直に認めるしかない。 女好きで軽薄ともいえる性格ではあるものの、理不尽に暴力を振るうこと好む気性ではない。 相手が少女なら、なおさらだ。 「うっ。そ、その通りだ」 ギーシュは頭をさげた。 負けるが勝ち。 そんな言葉が彼の脳裏を走ったかどうかは定かではないが。 「さっきの暴言は海に流してくれたまえ」 ギーシュはシャーリーに向かって謝罪する。 「完璧に僕が悪かった。どうか、びっくりするぐらい許してくれ」 しかし、いつもの調子は出ずに、何ともおかしな言い回しをしてしまった。 「い、いいえ……」 シャーリーはそう答えるのが、精一杯だった。 横でそれをハラハラと見ていたメイドたちもほっとした様子だった。 前ページ次ページゼロの使い魔はメイド
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1865.html
前ページテスト空間/ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 夜、タバサはルイズの部屋に来ていた。 正確にはキュルケに無理矢理連れて来られたのだが。 部屋には他に住人であるルイズと、その使い魔もいる。 部屋の中央で、ルイズ達は剣について言い争いをしている。 そんな彼らから離れ、タバサはベッドに座り今日購入した本を広げていた。 ―― モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムゥ ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンラダン トゥンジュカンラー カサクヤーンム ―― ふと、本から目を離すと、二人が杖に手をかけているのが見えた。 「言ってくれるわね、ヴァリエール」 「なによ、本当のことでしょ?」 タバサはすぐに杖を素早く振るった。 こんな場所であの爆発魔法を使えば危険である。 つむじ風が舞い上がり、キュルケとルイズの手から杖を吹き飛ばす。 「室内」 杖を飛ばされ、こちらへ視線を向けた二人に一言呟く。 「なによあんた。さっきからいるけど」 「あたしの友達のタバサよ」 「何であんたの友達が……タバサ?あのうるさい鳥の飼い主の?」 ルイズが忌々しげに呟く。 それを聞くと、タバサは本に向けようとしてい視線をルイズへ向け、睨みつける。 「鳥じゃない。みんな私の友達」 「何でもいいけど静かにさせなさい。こっちは夜中にあいつらが騒ぐせいで睡眠不足なのよ」 「それは無理。あの子達は夜行性。だから夜に活動する」 「うるさいうるさいうるさい!とにかく黙らせるなり逃がすなり殺すなりしなさいよ!」 ルイズはタバサの言葉に思わず叫んだ。 それを聞いた瞬間、タバサは勢いよく立ち上がり、ルイズに自分の身長よりも長い杖を向けた。 タバサの瞳の色は、氷のような青からギャオス達と同じような赤い色に染まっていた。 その様子に脅えながらも、ルイズは強がりながら尋ねる。 「な、何よ?言いたいことがあるなら言いなさいよ」 タバサは一言言い放つ。 「あなたに決闘を申し込む」 その様子を見て、才人は嫌な予感がしてきた。 「もちろん、使い魔同士で」 嫌な予感は的中してしまった。 タバサの言葉を聞くと、才人は慌ててルイズを説得し始めた。 「ルイズやめてくれ!俺がギャオスに勝てるわけないだろ!」 才人はギャオスの恐ろしさを知っている。 元の世界で何回か映画を見ているからだ。 「タバサもやめなさいよ。いくらゼロのルイズの使い魔でも、殺したらダ……」 キュルケも説得を試みるが、タバサに睨みつけられ何も言えなくなった。 そんな二人の様子を見ても、ルイズは頷いた。 「望むところよ。誰が逃げるもんですか!」 本心は逃げたい。自身などあるわけがない。 でも、こんな小さい子供?に決闘を挑まれては引き下がれない。 ルイズの返事を聞くと、タバサはすぐに窓を駆け寄り、口笛を吹いた。 口笛が辺りに響き、窓の外が一瞬で漆黒に染まり、叫びが聞こえてくる。 「この子達の力、見せてあげる」 前ページテスト空間/ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/53.html
前ページ次ページゼロの使い魔(サーヴァント) 「あなたは……誰?」 いつの間にか真っ青な空の下で、自分を見上げならそう訪ねられ、セイバーは目を細めた。 目の前で腰を抜かしたようにしゃがみ込んでいる女の子がいる。桃色がかった金髪の、鳶色の眼をしていた。 年のころは13歳か14歳か。あるいはもっと年下なのか年上のか。セイバーにもすぐには分別がつかない。多分、そう外れてはいないと思うのだけれど。 (あなたこそ誰なんです?) 逆に問い返したくなったのだが、もう少し観察してみることにする。 女の子は黒いマントの下に白いブラウス、グレーのプリーツスカートを着ていた。 なかなか、よく似合っている。手に持っている棒のようなものは、多分、武器ではない。 何かの指揮棒に似ていたが、そうでもないような気がする。 (黄色人種ではない、か) 見ている範囲で確実に解るのはその程度だ。 セイバーは少女からは目を離さず――周辺の情報を集めるために耳をすませ、静かに息を吸い、吐く。 ざわついている。 「おい……ゼロのルイズが成功させたぞ……」 「成功なのか? 成功っていうのかアレ?」 「どう見ても身分のありそうな騎士だぞ」 「いや、まだ通りがかりの騎士が落下してきたという可能性も……」 総じて、声は若い。 多分、目の前の少女とそんなに変わらない年頃の少年少女たちだと感じた。それ以外にも獣の唸り声のようなものも複数聞こえたが、警戒しているという以上のことは解らない。 セイバーは呼吸を静かに整えながら、情報を分析する。 (どうもここは、冬木からは遠く離れた場所のようですね……) 落胆も失望も、なかったといえば嘘になるが。 なんとなく、こんなことになるような気はしていたのだ。 セイバーはサーヴァントである。 サーヴァントとは書いてそのまま下僕とかであるといえばそうなのだが、正しくは彼女は人間ではない。 英霊、という存在だ。 英霊とは人類の歴史上に存在したとされる英雄たちのことである。死後、信仰の対象にまでいたったような彼らは英霊となる。 その英霊を召喚魔術で呼び出して使役するという無茶な儀式魔術が冬木の聖杯戦争で、呼び出された英霊はサーヴァントと呼ばれる。 これはセイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー、ライダーなどのクラスに縛りつけられた存在なので、厳密には英霊当人とは違うものである。 とはいえ、人格はバーサーカーにでもならない限りは変容することもないし、能力制限はあるが、生前とそんなに違和感はセイバーも感じたことはない。 彼女は聖杯戦争に参加していたのだが、ある事情で五次聖杯戦争の後も現世にとどまり続けた。 そして第六次聖杯戦争……は起こらなかったが、ある魔術師の野望を阻むために大聖杯を破壊したばかりだった。 それが、彼女の認識ではつい数分前の出来事だ。 破壊した直後に魔術が姿を変じた蜘蛛を、宝具を投げ飛ばして殺したのだ。 そしてさらにその後に突然現れたのが、あの鏡(のようなもの)だ。 一瞥ではさすがにそれが何なのかというのは彼女にも解らなかったが、元より、あの場所、あのタイミングで現れたものが何かの罠でないはずがない。そう思ったのは無理もない話である。 それゆえに彼女はそれに突っ込んだ。 無謀であるといえばそうだが、剣はその時に手放したばかりで、すぐさまできる手というのがそれしか思い浮かばなかった。 もっといえば、何かを考えている暇もあまりなかった。自身の対魔力を過信していたといえばそうであるし、万が一ここで命を失っても構わないとも思っていた。 で、だ。 突っ込んだ瞬間に、痺れにも似た感覚が全身に広がった。 (この感覚には覚えがある) 過去に二度。 現世に召喚された時に、似ている。 (ああ、そうか) 彼女は理解した。 これは――召喚の魔術だ。 彼女は自分の身に何が起きたのか理解した。 おそらくはあの鏡(らしきもの)をくぐったモノは召喚のゲートなのだろう。あるいは、空間転移のための魔術か。 いずれにせよそれは空間を繋げて別の場所に呼び出すというのだから魔法の域だ。行った魔術師は相当な人間に違いない。もっといえば人間ですらないのかも知れない。 だが。 理解はしたが、納得がいった訳ではない。 なんで自分なのだ? 自分だけがここにいるのだ? セイバーは、自身とマスターを繋げているレイラインが絶たれていることに気づいていた。 あのゲートが空間移動用のものであるにしても、一人の通過しかもたないような不安定なものだったのか、最初から一人のためのものなのか、それは解らないが、どっちにしてもここには士郎も凛もいないのは確かなようだった。 (いや、私の後を追ってシロウとリンがきていないのなら、それはそれでいい) こんな、得体の知れない状況にマスターをおいやるようでは、それこそサーヴァント失格だ。 だが、魔力の補給のない状態での現界はそういつまでもできないだろう。 そして、それもいいかとセイバーは思った。 二度とあの二人に会えないというのは寂しい限りのことだったが、覚悟はしていたことだ。 何処か心地よい諦観が彼女の胸に溢れ―― 唐突に気づいた。 魔力の補給はないのに、まったくなんの脱力も感じない。呼吸しているだけで体内で生成されている魔力が溢れてくるようであった。 (これは……大気の魔力が桁外れなのか) かつて生きた古代の時代ですらもこんなものではなかった。ギルガメッシュが生きていたような神世の時代でならあるいはともかく、現代の地球上でこんな場所があるだなどとは信じがたい。 というより、どんな細工をすれば空間を転移させただけでマスターとサーヴァントの繋がりを絶てるのだ? そこまでに思い至り、改めて目の前の少女を注視する。 後ろの方からざわつきながら聞こえる声からして、彼女が多分、ルイズという娘なのだろう。そして、おそらく彼女が自分をここへと呼び寄せたあのゲートを作った魔術師だ。 鳶色の目は、脅えたような、それでも精一杯の勇気がこめられてセイバーへと向けられている。 (邪悪な感じはしない……) いかなる意図があってあんな魔術を使ったのか、それを問いたかった。 なのに、どうしてか彼女の口はかつてと同じ、似たような構図で自分が出した言葉を紡ぎだしていた。 「問おう」 もっと別のことを言った方がいいのだろうか。 いや。 状況に納得はしてない。 納得はしていないが、この場でもっとも相応しい言葉がある。 ならばそういうべきなのだろう。 契約を結ぶかどうかは、その時に決めればいいことだ。 「貴方が私のマスターか?」 ◆ ◆ ◆ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは貴族である。 貴族ではあるがメイジではない。 近頃は金だのを積み重ねることによって所領を賜り、それで爵位を得ているような平民出の貴族も増えてはいるようだが、彼女のケースはそうではない。彼女の父と母は立派なメイジで貴族で、そして姉たちもまたメイジであった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、メイジの子でありながらも魔法が使えない貴族だった。 厳密に言えば魔法がまったく使えない訳ではない。何をやっても爆発させてしまうという失敗をしてしまうというだけのことである。 平民のように魔法の素養がまったくないというわけではないのだ。 だから、なのだろう。 彼女を見るたいがいのメイジの目は、そこらの平民を見るよりも冷ややかで、かつ嘲笑に満ちていた。彼女の実家が公爵家という身分の高い家柄であることも余計にそれを助長させているようであった。 それでも、あるいはそれだからこそ彼女は誇り高く振舞っている。 魔法のひとつも満足に使えない身だけれど、いつか使えるときがくると、ただいまの自分は努力が足りないだけなのだと。 彼女はメイジではないが貴族であった。 しかし、どっちにしてもメイジとしての勉強のために魔法学院にきているわけで。 使い魔召喚の儀式というのは伝統のあるもので、この儀式で使い魔を召喚することによって、メイジはやっと一人前の入り口にたつ。 使い魔は、その主人と一心同体の存在であり、その主人は使い魔を見ることによって己の属性を確定する。 ルイズはこの日こそは失敗すまいと心に決めていた。 いつだって失敗したくないとおもっいていたが、この火のこの儀式だけはとにかく失敗したくなかったのだ。 もしもこの儀式で、自分は使い魔も呼べなかったら―― それは、彼女の魔法使いとしての将来は本当に暗黒に閉ざされたものになるというのが確定してしまうからだ。 とにかくそういうわけで呪文を唱えて呼び出してみたのだが―― 「あなたは……誰?」 現れた女騎士に対し、ルイズはそれだけをいうのが精一杯だった。 「貴方が私のマスターか?」 質問に質問で返されたが、ルイズはそれに腹を立てる訳でもなく、改めて目の前の女騎士を見る。 今更だが、そう聞かれて、彼女はやっと目の前の女騎士が自分の使い魔召喚の儀式でやってきたのだと気づいた。 すぐに気付かなかったのは、使い魔として人間がやってくるだなんてことはありえない――そういう先入観があったからだ。 通常、召喚のゲートを通過してやってくるのはだいたいにおいて魔獣だの幻獣だのであり、そうでなければ梟とか蛙とか鼠とかだ。 そりゃ下半身が蛸のスキュラだの、亜人というべきモノもいないでもないが。 この人はどう見ても人間だ。そしてさらにいうのなら騎士だ。騎士ということはメイジであるということであり、貴族であるということである。 ハルケギニアでは、戦いは貴族の役目であった。勿論、平民出の兵士もいるし、メイジを相手にしてなお打倒できる〝メイジ殺し〟といわれる凄腕の戦士だって、いる。 そして彼女は、どう見てもそういう類の〝メイジ殺し〟とも違う。 なんというか、品格というか王気(オーラ)と言うか――そのようなものがあるのだ。 いずれ高貴な血筋に連なる人であるに違いない。 なのに。 (マスターか、と聞いた――それはつまり、私の使い魔になることを了承してゲートをくぐってきてくれたって訳?) まさか父か母の差し金ではないか、と一瞬疑ったが、それはないかと思い直す。 使い魔召喚のゲートがどういう基準で使い魔の前に現れるのかというメカニズムは、いまだ解明されていないのである。 解っているのは術者の属性に関係するということであり、メイジは使い魔を召喚することによって己の属性を確定する。 当然のことではあるが、使い魔を呼ぶまでもなく属性を知ることは可能ではある。しかし、いまだにまともに魔法を成功させたことのないルイズのそれは誰にも解らない。つまり、どういう使い魔がくるのかも解らないということだ。 いかに彼女の両親が凄腕のメイジで名門貴族であったとしても、それらの難関をくぐりぬけた上に、仮にもメイジ一人を娘の使い魔としてしまおうなどということができるはずがない。 そういうわけでその可能性を除外したルイズではあるが。 (どんな事情があってゲートをくぐったのかしら) 考えはしたが、結局、結論はでなかった。 でなかったのだが、「そうよ」と彼女は答えていた。 「私が、貴方のマスターである、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 轟然と、そう名乗る。 ルイズは家名を出して相手を平伏させようと考える性根の持ち主ではない。だが、この時は目の前の女騎士に気圧されている反動で家名を出した。それとこの女騎士がどの程度の貴族であるのかを確かめようともしている。 少なくともハルケギニアに生きる貴族ならばヴァリエールの名を出せば平然とはしていられまい。その度合いでどの程度の家格の者かも解るというものである――とルイズは自分に言い訳するように考えた。自分の中の脅えには彼女だって気付いているのだ。 しかし、女騎士の反応は彼女のどんな予想とも違っていた。 「るいずふらんそわーず……」 と呟いたのが聞こえたが。 軽く溜め息のようなものを吐き出し、肩を落としたのである。 そして。 「ああ、やはり貴方がマスターでしたか、メイガス」 どこかぼやくようなものがその声には混じっていた。 ルイズは敏感にもそれを察した。 「何よ! 私があなたの主人であることになんの不満があるっていうのよ!」 叫ぶ。 叫びながらもルイズには解っていた。 この人は、自分のような生まれた家の他にはなんの取り柄もないような駄目なメイジの使い魔であるのは相応しくないのだと。どういう事情なのかは知らないけど、きっときっとゲートの先には立派で素晴らしい魔法使いが待っていると思っていたに違いないのだと。 そう思ったのだ。 怒りと劣等感が彼女の視野を狭めている。 そもそもこれほどの威容を持った女騎士を使い魔にしようなどということが普通のメイジの考えではありえないのである。学院の長であるオールド・オスマンにだって無理だ。もっといえば、ゲートを好き好んでくぐるメイジというのがあり得ない。 いきなりの癇癪に女騎士は微かに戸惑ったようであったが、「落ち着きなさい、メイガス」と静かに言う。 それで落ち着いたら世話はないのだが、凛としたその声にルイズはきょとんとして顔を上げた。 気付けば、自分よりほんの少しだけ背丈のある女騎士の目線がすぐ前にあった。 僅かに膝を曲げたのである。 「別に、貴方に不満があるとかそういうのではないのですよ」 「……じゃあ、何なの?」 「それは――」 言いかけて、女騎士は振り向く。 「お話の途中、失礼します」 つるっぱけの頭に眼鏡の中年――コルベールが跪きつつもそう言った。 左の膝を落として右手を前に、そして左手を腰の後に廻した前屈姿勢である。右手の前には杖が置かれている。 それは貴人に対する礼に見えたが、むしろ自分が敵意のないことを示すための所作であった。 なのに女騎士が目を細めたのは、その眼鏡の奥の眼差しに隠しようのない鋭さを見て取ったからであろう。 「……御身は?」 「私は当トリステイン魔法学院で教師を務めております『炎蛇』のコルベールと申します」 恭しくはあるがその声はいつもどおりのはずである。はずなのに、何処か重くのしかかるような気がルイズにはした。 女騎士は「はい」と答え、どうしてか右手を見てから少し戸惑ったような顔をしてみせ、コルベールと同様の姿勢をとってみせた。 「ご丁寧に名乗っていただき、ありがとうございます。私は――」 「いえ、お名乗りは結構です」 コルベールは右手をあげて女騎士の言葉を遮った。 言いながら、このメイジの教師の頭の中では、状況からあらゆる推論が積み重ねられ、かなり蓋然性の高いと思われるストーリーがくみ上げられつつあった。 (いずれ名のある名家に連なるお方とお見受けするが……使い魔の召喚ゲートをくぐられるというのは、相当なご事情があってのことだ) 女騎士の言葉と装束から、コルベールはついさっきまで彼女が何か危地に陥っていたのだと考えた。 戦闘に携わっていた者としての勘としかいいようがないが、この人はゲートをくぐる直線まで戦っていたのだと判断している。雰囲気というか、空気がそういうようなものなのだ。 そして現れてから「マスターか」と聞いた。 それはつまり、彼女はそれと承知でここにきた……ということであろうか。 (いや、それはありえない。こんな立派な身なりの騎士が、戦いの最中で召喚ゲートをくぐるなどという判断を下すというのはありえない) いやいや。 逆に考えるのだ。 (あるいは……そういう判断を下す他はない状況であったということか) 戦いのに敗北寸前であったとか。 逃げ延びようとしている途中であったとか。 それで追い詰められる中で現れたゲートに、一縷の望みをかけて飛び込んだ――ということなら、あるかもしれない。 いやいやいや。 それも何か違う。 違うと思った。 この女騎士は、この人は……。 (敗北が似合わない) そう感じたのだ。 どういう種類の根拠もなく、それは直観としか言いようがなかったが。 この女騎士は、敗残者とか逃亡者などという言葉はどうあっても当てはまらない存在だ。 勝利を約束された戦場の王。 勇気をもって突き進む英雄。 それはあるいは、ハルケギニアに平和を齎せた新しきイーヴァルディの勇者の如き……。 微かに首を振り、それも打ち消す。 (あるいは、ゲートと知らずにくぐったのかもしれない) 召喚ゲートを知らないメイジというのはありえないが、使い魔の前にどういう風に現れるのかということは知られてない。というか観測された事実がない。 もしかしたら、こちらとは違う形態で現れて、それでちょっと試しに手を突っ込むとかしてみたらここにいて。 そして状況から判断して自分が使い魔として呼ばれたのだと知った――ということはどうか。 (……いや、それこそありえないか) しかしまあ、だいたいそういう感じなのだろうと推測した。予断ではあるが。 どちらにしろ、彼女がもしも名のある騎士なり王族であるのなら、ここで皆の前で名乗られるのは拙い、とコルベールは判断したのである。 「ご事情については、詳しいことはいずれミス・ヴァリエールを同伴の上で、学院長様のところで」 ――自分では責任を取りきれませんから、という言葉は口にしなかった。 そして残る事案は、彼女がルイズと契約をするか否かということだけになった。 「構いません」 と女騎士はわりとあっさりと承諾した。 これには。 「いいの!?」 とルイズも驚いたし、コルベールも目を丸くした。 それは確かに、彼女に使い魔になって貰わなくてはルイズのメイジとしての将来が困ったことになるが――彼女に使い魔になってもらうということは、ルイズの人生に深刻な影響があるように思えてならなかった。 「確かに私も主を持つ者ですが」 そのつながりも途切れてしまった、というと、ルイズの顔が泣きそうに歪んだ。責任を感じているのだ。 女騎士は安心させるように微笑んで見せる。 「いつか主のもとに還ることがあるかも知れませんが、そのためにも存在し続けねばいけません」 「そうなの……」 その言葉をどう受け止めたのか、ルイズの表情は晴れないままだ。 女騎士は改めて跪き、ルイズに顔を寄せた。 「小さなメイガスよ。この召喚は確かに私にとっては不本意なものでしたが、ここに私がいることには意味があるはずです」 不本意、という言葉にびくりと身体を振るわせたルイズだが、女騎士は少し思案してから。 「もう一度いいます。私がここにいることには意味があるはずです」 「だけど……使い魔よ? 貴方みたいな立派な騎士さまがすることではないわよ! ご主人様がいるのなら、召喚なんかなかったことにして帰ればいいじゃないの!」 「そのつながりは絶たれてしまいましたので――」 「ミス・ヴァリエール」 見かねたのか、コルベールが横合いから口を挟んだ。 ちなみ生徒たちは先に帰らせている。 「使い魔召喚の儀式は神聖なものだ」 「え、ええ」 「本来ならば、人間が召喚されるという事態はまるで想定外のことだが」 「はい……」 「やはり、ルールは守らねばならない」 「――――」 このはげ、とんでもないこといいやがる、とでもいいたげな顔で教師を見上げたルイズは、「解りました」と投げやりにはき捨て。 跪いたままの女騎士の顔を両手で挟み込んだ。 「言っておくけど」 「はい」 「使い魔なんてやっぱりいやなんて言っても、契約した後では遅いんだから!」 「――もとより私はサーヴァントである身です」 「ふん! たいした覚悟じゃないの!」 なんだか微妙にかみ合ってない会話だなあとコルベールは傍目に思ったが、コントラクト・サーヴァントは大切な儀式だ。静かに見守ることにする。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 そして唇を寄せる。 女騎士が目を見開いたのに、コルベールは僅かに眉を寄せた。 それも、その二つの唇が合わされた時までだ。 少女も騎士も美形といって申し分のない容姿である。その二人の口付けというのは独身者の身にはいささか以上の刺激であったらしい。 女騎士はルイズの顔が離れてもしばし戸惑っていたが、やがて訝しげな顔をして左手を見た。 「これは――令呪、ではないのか」 その呟きをどう受け取ったらいいものか解らず、コルベールは「ふむ」とその手に顔寄せる。 「コントラクト・サーヴァントは成功したようですな。篭手の下、左手にルーンも刻まれたようですし。あとで確認させていただきますので、よろしくお願いします」 それから一通りの指示をルイズにした教師は、それでは、と一礼して宙に舞う。 しばしそれを見送った女騎士は、改めてルイズに向き直り。 「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ馳せ参上した。 これより我が剣は貴方と共にあり、運命は貴方と共にある。 ―――ここに契約は完了した。」 それは宣言であり、誓約の言葉だ。 たがえることのない絶対の契約だと、主従であると。 この女騎士、いや、セイバーはそう言ったのだ。 ルイズは呆然とセイバーを見上げていたが、やがて「ふん」と顔を逸らし歩き出す。 「ついてきなさい」 セイバーは頷き、その後ろを従った。 やがてすぐに足を止めたのに気付き、ルイズは振り向く。 「どうしたの?」 「いえ」 セイバーを空を見上げていたのだ。 ルイズもつられてそこをみたが、あるのは何の変哲もない月が二つあるだけだ。そういえば、もうそんな時間になっていたのかと彼女はようやく気付いた。 そして。 「どうやら、本当に遠い場所にきたようです」 そんなことを彼女の使い魔が言った。 果たしてセイバーの言葉にどういう意味があるのかも解らず、彼女は首を傾げるのだった。 ゼロの使い魔(サーヴァント) 第一話 了 前ページ次ページゼロの使い魔(サーヴァント)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9004.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二話「これがウルトラの歴史だ!」 変身怪獣ザラガス 地底怪獣グドン 宇宙大怪獣ベムスター 雪女怪獣スノーゴン 用心棒怪獣ブラックキング 登場 『ヘアッ!』 『ガアアアアアアアア!』 新設されたばかりですぐに半壊させられた児童会館の前で、赤と銀色の巨人が一匹の巨大怪獣相手に戦っている。 怪獣の方は、攻撃を受ける度に体質変化を起こして、以降同じ攻撃に対する耐性を取得してパワーアップする 恐るべき能力を持った大怪獣ザラガス。そして巨人の方は、ウルトラマンゼロの大先輩にして、 現代の人類が記録している中で最初に地球に来訪して数々の怪獣の脅威から地球を護った偉大なる光の戦士、 初代ウルトラマンである。 しかしこの戦いは現在行われているものではない。ウルトラマンが地球を護っていた頃の、 アーカイブ映像なのであった。 『ヘアッ!』 ウルトラマンはザラガスのフラッシュ攻撃を食らって一時的に失明してしまったのだが、 敵の気配を敏感に察知することで、背後から忍び寄っていたザラガスの後ろ蹴りを浴びせて返り討ちにした。 『ガアアアアアアアア!』 蹴り飛ばされて転がったザラガスだが、起き上がると鉄塔をもぎ取って、それを武器にウルトラマンに接近する。 対するウルトラマンは、目が見えないというハンデがやはり大きく、無防備である。ウルトラマンのピンチ! そこに当時の地球防衛隊に当たる科学特捜隊自慢の万能戦闘機、ジェットビートルが飛来。 鉄塔を振り上げて今にもウルトラマンに攻撃しようとしていたザラガスの口の中に砲撃を撃ち込んだ! 『ガアアアアアアアア!』 その一撃ではザラガスを倒すには至らなかったが、攻撃を阻止して動きを止めさせることは出来た。 『ヘアッ!』 そしてジェットビートルが時間を作ってくれたお陰でウルトラマンの視力が回復。 直ちに彼の代名詞ともいえるスペシウム光線を発射した。 ザラガスは攻撃に対しての急激な進化を繰り返す恐ろしい怪獣だが、体質変化を起こしている最中に 更に受けた攻撃を耐えることは出来ない。その唯一の弱点を突かれて、ザラガスは絶命して大地に倒れた。 『シュワッチ!』 怪獣を倒して役目を終えたウルトラマンは、いつもそうするように、この時も空に飛び上がってどこかへと去っていった。 場所はガラリと変わり、岩山が連なる山脈。ここにウルトラマンの次に地球を度重なる 悪性宇宙人の侵略から守護していた深紅の戦士、ウルトラセブンが、十字架に閉じ込められて横たえられていた。 この時の彼はガッツ星人という侵略者に敗れて、地球人への見せしめとして処刑されかけていたのだ。 だがウルトラセブンを復活させる方法を知ったウルトラ警備隊が彼の所在地を突き止め、 間一髪のところでエネルギーを与えたことにより、セブンは再び立ち上がる! 『ジュワッ! ジュワーッ!』 指先からブレーク光線を発して、自らの動きを封じる十字架を破壊。勢いよく立ち上がると、 処刑しようと近づいていたガッツ星人の円盤をハンディショットで全機撃墜した。 『ジュワッ!』 そして飛行して円盤の母機の前へ接近。敵の攻撃をウルトラVバリヤーで防ぐと、 太陽光線からエネルギーを更に吸収して力を蓄え、ハンディショットを連発して円盤を集中的に攻め立てる。 『ジュワッ!』 十分攻撃を加えたところで、頭についているセブン一番の武器、アイスラッガーを外して空中に固定。 それにハンディショットを当てて威力、発射速度ともに増加させるという大技、ウルトラノック戦法を繰り出した! 『ジュワーッ!』 アイスラッガーの強烈な一撃を受けた円盤は跡形もなく粉砕され、ガッツ星人の侵略計画はここに潰えた。 更に場所は変わり、東京のど真ん中。異常気象の影響で目覚めた怪獣の一体であるグドンに、 地球を護る命を帯びて来訪した後のウルトラ兄弟の四男、ウルトラマンジャックが挑む。 『グオオオオオオ!』 『ヘアーッ!』 この時はグドンの他にツインテールという別の怪獣がいて、ジャックは二対一の状況に苦しめられていたのだが、 MATの活躍によりツインテールとグドンが衝突。結果ツインテールが絶命し、ジャックとグドンの一騎打ちの形になった。 そしてこうなったからには、ジャックは負けない。 相手の懐に潜り込み、グドンを背負い投げ。その後体当たりを食らって地面に転がるが、 向かってくるグドンの足を刈って転倒させた。 『グオオオオオオ!』 『ヘアァッ!』 グドンとジャックの激闘が続くが、ジャックがグドンの身体を捕らえて放り投げたことで、 叩きつけられたグドンの動きが鈍る。その隙を逃さずにスペシウム光線が発射された。 必殺光線がグドンを瞬時に爆散させ、二大怪獣は両方とも倒された。東京は救われたのだった。 ……以上、三つの戦闘が立て続けに流されると、才人の通信端末の画面が暗転した。 そうするとルイズが画面から目を離し、才人に向き直る。 「……これって、本当にあったことなの?」 「ああ。もちろんだ」 見せられたものが現実のものと信じ切れないルイズの問いに、才人はコックリとうなずいた。 ウルトラマンゼロと三怪獣の戦闘が終わると、魔法学院は上から下までひっくり返ったかのような大騒動となった。 あの怪物たちは一体何だったのか、そして魔法が全く通用しなかったそれらを更に上回る力で以て瞬殺した 青と銀の巨人は何者なのか、自分たちの目の前で何が起こっていたのか。誰もが様々な推測を立てたが、 「宇宙」という概念も根づいていないハルケギニアの人間では、答えにたどり着く者は一人も出なかった。 はっきりしているのは、この件の報告を受けた王室が直ちに調査団を派遣することを決定したことくらいである。 しかしただ一人、ルイズだけは、才人はゼロに変身するすぐ近くにいたため、 二人が同一人物ではないかという推測を立てることが出来た。そしてその日の晩に自室に戻ると、 すぐに才人を問いただし出した。その結果、才人は手始めに、ハルケギニアにやってきた直後にも披露した通信端末の、 以前は話がややこしくならないようにあえて見せなかったウルトラマンと怪獣の戦いの録画を見せたのである。 映像を見終えたルイズはしばらく頭を抱えていたが、考えが纏まったのか顔を上げて声を発する。 「あまりに信じがたいことだけど……でも今日カイジュウ? っていうものを実際に見ちゃったし…… 信じるしかないわよね。あんたが、別の世界から来たってことも」 「何だよ。信じてなかったのか?」 「当たり前よ。突飛がなさすぎることだから、それを見せられても半信半疑だったわ」 問い返してきた才人にそう答えると、次の質問に移る。まだまだ聞きたいことは山ほどあった。 「あのカイジュウたちが、あんたの世界の生き物だってことは分かったわ。けど、そいつらと戦ってた、 うるとらまんって巨人は何者なの? 今日実際に私たちの目の前に現れたあいつは、サイト、 あなたってことでいいのかしら?」 この問いに、才人は返答に困る。 「う~ん……実はウルトラマンのことは、俺も全部を知ってる訳じゃないんだ。俺とウルトラマンゼロは、 今は同じ身体を共有してるだけで、別人だしな」 「言ってることがよく分かんないんだけど……名前はウルトラマンゼロ、でいいのね? 気に入らない名前だけど……とりあえず、そのゼロと話をさせてもらえないかしら?」 自分の蔑称そのままなので不快に思うルイズだが、それは置いておいて、ゼロと直接会話できないかと考えてそう頼んだ。 すると才人は余計困る。 「ゼロと話を? いいのかなぁ……」 『俺なら構わないぜ』 突然ゼロの声がしたので、才人は驚いて左腕のブレスレットを顔の前まで持ち上げる。 「うわッ! 急に話しかけるなよ。心臓に悪い」 「えッ!? 今の、どこから声がしたの!?」 ルイズも驚いていると、ゼロが感心したようにつぶやく。 『へぇ、今の聞こえたのか。才人にだけ言ったつもりだったが、これも契約ってもんをした影響なのかね』 「そうなのか……。それでゼロ、本当にルイズと話しするのか?」 『ああ。共同生活をする以上、俺とウルトラマンのことを教えないままって訳にはいかないだろうからな。 さぁ、こいつで俺と代わってくれ』 ブレスレットからウルトラゼロアイが出てくると、それを目にしたルイズが驚く。 「わッ! また出てきた! そのブレスレット、どういう仕組みなの?」 「ウルティメイトブレスレットっていうんだって。ゼロの大事なアイテムだってさ」 簡単に説明した才人が、ウルトラゼロアイを装着する。 「デュワッ」 その途端に才人の身体が光り輝き、瞬時に身長はそのままにウルトラマンゼロの姿となった。 『よう。俺がご紹介にあずかったウルトラマン。ウルトラマンゼロだぜ』 「ほ、本当に才人がウルトラマンってのになった……大きさはそのまま……」 しばし呆然としていたルイズだが、気を取り直してゼロ本人に質問を始めた。 「そ、それじゃあウルトラマンゼロ……あなたたちウルトラマンって、一体何者なの? どこから、何のためにこのトリステインにやってきたのかしら? 教えてもらえる?」 『ウルトラマンのことか……。色々と話すべきことが多くて、さてどこから話したもんかな』 しばし考え込んだゼロは、やがてこう切り出す。 『そうだな、ここは一からその目で見てもらおうか。その方が理解しやすいだろうしな』 「え? 見てもらうって、何を?」 『すぐに分かるさ。才人もついでだ。それじゃ、始めるぞ』 説明もおざなりに、ゼロは腕を組んで精神を集中し出す。 『はぁッ!』 そして掛け声が発せられると、ルイズの視界が急転。自室から、数多の星が輝く宇宙空間のビジョンへ放り出された。 「えぇッ!? な、何これ!? 私夜空に浮いてる!?」 「うおッ! こりゃすげぇな!」 「サイトまで!?」 気づけば才人が隣に浮いていた。混乱している彼女に、どこからかゼロの声が響いてくる。 『落ち着け。これは本物じゃない。俺が超能力で見せてるビジョン、幻影のようなもんだと思ってくれ。 場所が移った訳じゃないぜ』 「幻影……なるほどね」 『じゃあ説明を始めるぞ。まずは……ルイズ、お前が毎日見てる空の、その向こう側には何があると思う?』 ゼロは最初に、ルイズに宇宙の概念を教えることから始めた。 「空の向こう側? そんなの考えたことないんだけど……その先ってどこまでも続いてるものなの?」 『ああ。空の向こうには宇宙っていう果てしなく広い空間が続いてて、そこにはいくつもの星、 つまり大地や、太陽と同じ恒星が無数に存在し、様々な生命体が活動してる。夜に見る夜空の星の きらめきの正体がこの恒星さ。お前たちがハルケギニアって呼んでる大地も、宇宙に存在する星の一つにあるものなんだ』 「な、何だかついていけないんだけど……」 『まぁここで無理に理解してくれなくたっていい。とにかく、遠い空の彼方にも大地があるってことぐらいには思ってくれ』 簡単に宇宙を説明すると、ルイズと才人の目の前に惑星のビジョンが現れた。 「これは……?」 『これははるか昔のM78星雲の惑星、ウルトラの星。ここが俺たちウルトラマンの故郷だ』 惑星の表面がズームアップして、星の大地に暮らす人々の様子が見えた。彼らは今のウルトラマンとは違う、 地球人やハルケギニア人とほぼ同じ容姿をしている。 『俺たちはかつて、お前たちと変わりない種族の人類だった。だが、27万年前に運命が大きく変化した』 突然ウルトラの星の太陽が爆発し消滅。ウルトラの星は暗黒に包まれる。 『27万年前に太陽が大爆発を起こして消えてしまったんだ。そのため、ウルトラの星は光を失ってしまった』 「た、太陽が爆発って、それ大丈夫なの!?」 まだ「宇宙」を理解していないルイズだが、それがとんでもない事態であることは想像がついた。 『もちろん大事態さ。光を失ったら、星全体の命が死に絶える。だが俺たちの先祖は決して諦めなかった。 太陽がなくなったなら代わりを作ればいい。星の住人が力を合わせることで人工太陽プラズマスパークの開発に成功し、 ウルトラの星は全滅をまぬがれたんだ』 真っ暗の世界にプラズマスパークの輝きが広がり、星は命を取り戻した。 『だがプラズマスパークは、予想をはるかに超えた恩恵を俺たちの先祖に与えた。 プラズマスパークから発せられるディファレーター光線が、先祖たちの身体を全く別のものに変えたんだ』 ルイズと才人の見ている前で、ウルトラの星の人間の姿が、超人ウルトラマンのものへと変貌した。 『これが今で言うウルトラマンの誕生さ。だがウルトラの星の人間は元々争いを好まない性質だから、 与えられた新しい力と姿を持て余してる感じだった。四万年前まではな』 「四万年前までって……その時に何かあったの?」 ルイズが問いかけた瞬間、目の前に広がる光景がウルトラの星のものから大きく変化し、 大勢の異形の集団が出現した。 『ギアァッ! ギギギィッ!』 『パオオオオ! パオオオオ!』 『グアアアアァァァァ!』 ベムスターやスノーゴン、ブラックキングなど、数々の種類の怪獣軍団の背後にテンペラー星人や メフィラス星人、グローザ星系人、デスレ星雲人ら宇宙人軍団が並び、更にその後ろで、 漆黒のまがまがしい雰囲気を湛えた怪人が全体の指揮を取るように腕を上げている。 『四万年前に、エンペラ星人という宇宙中を荒らすとんでもなく悪い奴が大怪獣軍団を率いて、 ウルトラの星に攻めてきたのさ。俺たちウルトラ一族と怪獣軍団の戦いは長く続いたが、 後のウルトラの父となるウルトラ戦士がエンペラ星人を下したことで戦乱は終わりを迎えた。 だが放っておけばまたエンペラ星人のような奴が宇宙のどこかに現れ、宇宙の平和が乱されるんじゃないかと 考えたウルトラの父は、平和を乱す悪者を退治する宇宙警備隊を組織した』 怪獣軍団が消えると部隊がウルトラの星に戻り、星からたくさんのウルトラ戦士が宇宙へ向けて 飛び立つ様子がルイズたちの目に入った。 『俺たちウルトラマンが才人の故郷である地球という星と関わったのも、宇宙警備隊の活動の中でだ。 ある時一人のウルトラ戦士が逃亡した凶悪な宇宙怪獣を追って、地球に降り立った。彼はその星が怪獣や 他の星からの侵略者の危機に晒されていると知ると、地球に住む命を助けるために地球に留まった。その戦士が、 地球人から「ウルトラマン」の名前を授かった最初の一人になったのさ』 ルイズと才人の目の前に、そのウルトラ戦士の姿が映し出される。言うまでもなく、 ウルトラマンその人である。 「この人は、さっき見た……」 『彼がウルトラの星に帰った後も、何人もの戦士が地球に危機が訪れる度に出向き、 地球人を助けてきた。これが、地球との関わりを含めたウルトラの星の歴史の大体さ』 ウルトラマンに続いて、ウルトラセブン、ジャック、エース、タロウ、レオ、80、メビウスの姿が現れては消えていった。 「ウルトラマンって、こんなにいるのね……」 「俺もウルトラマンのことは授業で聞いたけど、こうして見ると何だか全く違う話みたいだなぁ」 呆けるルイズの隣で、才人がしみじみ語った。 『そしてこの俺、ウルトラマンゼロは今、ルイズ、お前の暮らすハルケギニアのあるこの星に 邪悪な何者かの魔の手が忍び寄ってるとの情報を受けて、侵略者を倒してこの星を護るためにやってきたんだ。 このハルケギニアに存在してないはずの怪獣が出現したのも、そいつの影響だろうな。これで分かったか?』 「えぇーッ!? そ、そんなことになってたの!? その私たちの星を狙う奴の正体は!?」 ゼロの目的を知り、ルイズは目をひん剥いて絶叫した。 『残念だが、そいつを調べるところも俺の任務だ。つまり正体は不明。だがいずれ調べ上げて、 俺がとっちめてやるぜ!』 とゼロが宣言すると、ビジョンが消え去り、元のルイズの部屋の光景に戻った。 才人のビジョンも消える。 『今ので大体のところは理解してもらえたか?』 「そ……想像してた以上の話だったわ……私、とんでもないのを使い魔にしちゃったのね……」 途方もない大きさの話に、ルイズはすっかり圧倒されていた。そんな彼女にゼロが頼みごとをする。 『今日現れたような怪獣が、またハルケギニアのどこかに出現することだろう。その時俺は、 そこに飛んでいって怪獣と戦わなきゃいけない。そんな訳で度々この学院を離れなきゃならない。 当然俺と一体化してる才人も一緒なんだが、時々いなくなるのを許してもらえるか?』 「ま、まぁ……使い魔が勝手に私の側から離れるのは不本意だけど……人の命が懸かってるんじゃしょうがないわね。 あんまりうるさくは言わないでおいてあげる」 さしものルイズも、ゼロの役目を受け入れざるを得なかった。だが、ここでふと疑問がわき上がる。 「でも待って。あなた、どうしてサイトと身体を分け合ってるの? 本来は別人なんでしょう? 何かと不便なんじゃない?」 『そこはちょっと訳があってな……今の才人は俺がいないと、命がなくなっちまうんだ。 だから離れることが出来ないんだよ』 「よく分かんないけど……だったらだったで、サイトの姿じゃなくてずっと今の姿でいればいいんじゃないかしら? どうして今日戦う時になって初めてその姿になったの?」 ウルトラマンのことを少しでも知る者ならばすぐに分かる理由について尋ねかける。 『そうしたいのは山々だが、そうもいかないのさ。ウルトラマンの力は途方もなく大きなもんで、 俺自身ウルトラマンとはどこまでのことが出来るものなのか完全には把握してない。 だがそのせいなのか、エネルギーの消耗が半端なくてな。環境によっては、ごく限られた時間しか 本来の姿を保ってられないんだよ。このハルケギニアでもそうなのさ。だから必要じゃない時は、 才人が表に出てるって訳だ』 「ふぅん……ウルトラマンになるというのは、いいこと尽くめって訳でもないのね」 納得したルイズに、ゼロが胸の青いランプを指し示して見せる。 『この胸のカラータイマーが赤く点滅し出したら、限界が近い合図だ。後、才人がこの俺、 ウルトラマンゼロってことは黙っててくれよ。無用な騒ぎを起こしたくはないからな』 「分かったわ。言っても、誰も信じないだろうしね」 『言うべきことはこれで全部かな。それじゃ、才人に戻るぜ』 ひと通りの説明を終えたゼロが目の部分に手を当てると、ウルトラゼロアイが身体から分離して、 同時に才人の姿に戻った。 ゼロからの話が終わると、ルイズは大きなため息を吐いた。 「ふぅ……あまりに壮大な話を一気に聞かされて、疲れちゃったわ……。今日はもう休むから、 サイト、あなたも早く寝なさいよ。急に態度が変わったら怪しまれるだろうし、 明日からも普段通り接するからね。洗濯サボるんじゃないわよ」 「はいはい。分かってますよっと」 「それと……その……」 忠告したルイズは、途中で歯切れが悪くなったが、やがて声を絞り出した。 「今日は、ありがとう。危ないところを、助けてくれて」 すごく照れくさそうに礼を言われて、才人は思わず面食らったが、すぐに顔をほころばせた。 「気にすんな。当然だろ」 「どうして?」 「俺はお前の使い魔だろ」 「……!」 それを聞いたルイズはぎくしゃくとした動きでベッドに横になり、間もなく寝息を立て始めた。 彼女が就寝すると、才人は苦笑を浮かべた。 「いつもは何かとやかましいけど、可愛いところあるじゃん」 それから、ブレスレットを介してゼロに尋ねごとをする。 「ところでゼロ、一つ聞いておきたいことがあるんだけど」 『まだ何かあるのか?』 「ギーシュの奴との決闘の時、俺すごい力を出しただろ? あれってやっぱりお前が力を貸してくれたのか?」 ずっと気になっていたことを確かめると、ゼロからは意外な答えが返ってきた。 『いいや、違うな』 「え? そうなのか?」 『俺も途中で手助けしてやろうと思ったんだが、実行する寸前にお前がものすごい剣の腕を発揮したんじゃねぇか。 正直驚いたぜ。お前って強かったんだな』 「まさか! 俺はここに来るまでは、ただの高校生だったんだぜ? 剣を握ったことなんて一度もないよ。 ましてや、青銅を真っ二つにするなんて」 才人が否定すると、ゼロはやや考え込んだようだった。 『それもそうだよな……。だったら、左手のルーン文字が関係してるのか』 「左手のルーンだって?」 ルイズとの契約の証であるルーンに目を落とす才人。 『お前が剣を握った瞬間、そのルーンが光ったんだよ。聞けば、使い魔ってもんは特殊な能力を得るもんじゃないか。 強くなったのは、その能力によるものじゃないか?』 「そうなのかなぁ……」 腑に落ちない才人なのだが、自分と同じくハルケギニアに来たばかりのゼロが正解を知っているはずがない。 夜も遅いので、結局謎の解明はしばらく保留となるのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9020.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七話「王女の来訪」 銀河皇帝カイザーベリアル 帝国猟兵ダークロプス 暗黒参謀ダークゴーネ 暴れん坊怪獣ベキラ 登場 ルイズは自分のベッドの上で、夢を見ていた。舞台は生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。 幼い頃のルイズはしばしば、デキのいい姉たちと自分を比べて叱責する母から逃げるために、 あまり人の寄りつかない中庭の池に身を隠していた。 その日も小船の中に忍び込み、用意してあった毛布に潜り込んでしくしく泣いていると、 中庭の島にかかる霧の中から、一人のマントを羽織った立派な貴族が現れた。 「泣いているのかい? ルイズ」 尋ねてきた貴族の顔は羽根つき帽子に隠れて見えないが、ルイズは彼が誰だかすぐにわかった。 子爵だ。最近近所の領地を相続した、年上の憧れの貴族。そして、父と彼との間で交わされた約束……。 「子爵さま、いらしてたの?」 「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」 「まあ!」 ルイズは子爵の言葉で頬を染めて、俯いた。 「いけない人ですわ。子爵さまは……」 「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」 子爵がおどけた調子で聞くと、ルイズは首を振った。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……。わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 子爵はにっこりと笑って、手をそっと差し伸べてくる。 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」 「でも……」 「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」 ルイズは頷いて、立ち上がり、大きな憧れの手を握ろうとした。 そのとき、風が吹いて貴族の帽子が飛んだ。 「あ」 現れた顔を見て、ルイズは当惑の声を上げた。同時に、姿も現在のものに変わる。 帽子の下から現れた顔は、憧れの子爵などではなく、使い魔の才人であった。 『デュワッ!』 その背後には、天高くそびえる青と銀の巨人、ウルトラマンゼロがこちらを見下ろしている……。 そして気がつけば、ルイズはラ・ヴァリエールの屋敷とは全く異なる、見知らぬ場所に立っていた。 「えッ!? ここどこ!?」 そこは、両脇に多数のモニターが宙に浮いている、無機質な金属で出来上がった部屋。 奥の一面がガラス張りになっている窓からは、先日ゼロに宇宙へ連れていった時に見下ろした、 ハルケギニアと似た惑星が見える。だがその星は、信じられないことだが、鉤爪の生えた 手のようなものに掴まれている。あの手は、一体どれほどの大きさなのか。 大きさといえば、今いる部屋もルイズと比較して異常に大きい。魔法学院や王宮のホールの何十倍もある。 そしてルイズはその部屋の中央に置かれた、半球形の透明な円蓋の中に閉じ込められているのだ。 非常に狭苦しく、部屋との対比もあって、籠の中の鳥になった気分である。 「ここは!?」 捕まっているのは自分だけではなかった。気づけば、すぐ横に白い見慣れぬ装束を纏った青年がいて、 自分と同じように外の光景に驚いていた。 青年の顔は見たことのないものだったが、ルイズは何となく、直感でそれが誰なのかを理解した。 「……ゼロ……?」 その青年は、どう見ても才人ではないが、中にいるのはウルトラマンゼロだ。それがルイズには分かった。 「ねぇ、あなた、ウルトラマンゼロよね? ここはどこなの?」 「ナオ……エメラナ……」 尋ねるルイズだが、青年はルイズに視線も寄越さなかった。いや、気づいてすらいない。 きっと向こうからこちらは見えていないのだ。 よく考えれば、これは夢で、到底現実とは思えないような光景が広がっているのに、妙なリアリティがある。 恐らく、これは自分の夢ではなく……。 『やっと会えたな……』 その時、窓の反対側にある階段の上から、玉座に腰掛ける者が青年に呼びかけてきた。 『ダークロプスを送り込んだ甲斐があったぜ……』 毒々しい赤色のマントを羽織った巨人の姿をひと目見たルイズが、目を見張った。 「え……!? ウルトラマン……!?」 その漆黒の巨人の顔つきの特徴と、胸部にあるカラータイマーは、彼がウルトラマンであることを示していた。 だがルイズは、漆黒の巨人がウルトラマンであるとは一概に信じられなかった。巨人は、ぶっきらぼうながらも 温かい雰囲気のゼロとは正反対の、背筋が凍えるほど冷たく邪悪なオーラを纏っていたからだ。 『疼く……疼くぜ、この傷が……!』 巨人は顔面の右半分、目頭から顎に掛けて走る大きな傷跡を撫でた。その巨人の名を、青年が口にする。 「ベリアル……!」 「ベリアル……」 『フフフフ……』 ルイズが復唱している間に、巨人ベリアルが玉座から一気にルイズたちの前へと降り立ってきた。 『見ろ……これはお前につけられた傷だ……! ウルトラマンゼロッ!』 傷を見せつけたベリアルに、青年=ゼロが叫ぶ。 「俺と戦え!」 すると、ベリアルはゼロをこれでもかとばかりに嘲笑した。 『何言ってやがる! そんな虫けらみてぇにちっぽけになっちまって。もうエネルギーがないんだろう?』 ベリアルは、今のルイズと同等の肉体のゼロを、限りなく見下していた。その態度は、 どんな命も大切なものだと説いたゼロとは真逆だった。 『こいつが欲しいか』 と言ったベリアルの爪先には、ウルトラゼロアイがあった。 「ウルトラゼロアイ! こいつ! それを返しなさい! それはゼロのものよ!」 思わず叫ぶルイズだったが、その声は誰にも届かない。当然だろう。これはきっと、過去に起きた出来事なのだ。 『お前はそこで見物していろ』 「何をする気だ!」 ベリアルが壁際に浮かぶモニターの一群を指す。それらは、奇怪な形の宇宙船団が緑色の光に包み込まれ、 どこかへ高速で飛ばされているところを映していた。 『今のでちょうど百万体目だ。光の国をぶっ潰してやるぜ!』 別のモニターは、その宇宙船に、ゼロに酷似しているが色合いと単眼という点が異なる巨人たちが 入れられるところを表示していた。 「な……何あれ……? もしかして、あのゼロみたいなのが、百万も……!?」 「やめろテメェ!」 『フッフッフッフッ……挨拶状はとっくに送ってやったぜ』 そしてまた違うモニターは、前にゼロの見せたビジョンにあった彼の故郷、光の国に、 ベリアルの数え切れないほどの宇宙船団が迫る場面をルイズたちに見せていた。 「あっちには親父がいる! 仲間もいる! お前の軍隊なんかに負けはしない!」 ゼロは懸命に言い放つが、ベリアルは更に彼を見下す。 『どんだけダークロプス軍団を造ったと思ってる! これからが見物だぜ!』 既に光の国には大軍団が押し寄せているのだが、宇宙船とダークロプスは今も送り込まれ続けられていた。 『いくらウルトラ戦士でも、この数は無理だなぁ』 モニターの中で、光の国から飛び立ってきたウルトラ戦士たちがダークロプス軍団と宇宙船団に立ち向かうが、 圧倒的に勢力が足りていない。彼らは四方からの宇宙船団の攻撃に晒される。 「ひどい……!」 「やめろぉー!! おいッ!!」 ゼロは必死で円蓋を叩くが、今の彼の力では、それを破ることも出来なかった。 『もうお前には何もない。絶望の恐怖を、味わうがいい……!』 「ベリアル、テメェ……!」 嘲笑うベリアルに、ゼロは怒りを露わにする。その彼の心情をおもんばかり、ルイズは胸を痛めた。 『カイザーベリアル陛下』 その時、ベリアルの背後に控えていた四つ目の巨大怪人が呼びかけた。その怪人も、 ベリアルと同質の禍々しい空気を纏っている。 『あぁ?』 『あれを』 怪人がモニターの一つを指し示すと、そこには、移動の用意をしている宇宙船団に攻撃を加える、 鳥のような形状の紅白の宇宙船の姿が映っていた。 「ジャンバード! みんな無事だったのか!」 ゼロの言葉で、その宇宙船がゼロの味方であり、仲間であることをルイズは知った。 『我々の侵略部隊を邪魔しております』 『ふんッ。撃ち落とせ!』 『はッ!』 怪人にベリアルが命令を下すと、ゼロはモニターの中の仲間へ向けて叫ぶ。 「逃げろ! 逃げるんだ! バラージの盾はまだ見つかってないんだぞ!」 その時、仲間からゼロへの呼びかけが来た。 『兄貴! 聞こえる!? ベリアルの思い通りにはさせないよ! 今助けるからね!』 『ゼロ! 気をしっかり! 必ず助けますから!』 「ナオ……エメラナ……」 少年と女性の声を聞いたゼロの瞳から、感涙がこぼれ落ちる。 「あれが……ゼロの仲間……」 ルイズがつぶやいた、その時、落涙から強い輝きが発せられて、円蓋が突然砕け散った! 「え!? 何が起きたの!?」 驚いていると、閃光は十字型の紋様に変化し、そこから緑と銀の腕が飛び出てきた! 『随分探しましたよ……』 紅白の宇宙船が窓を突き破って部屋に乱入したと同時に、優しい声がしたところで、その夢は途切れた……。 帝政ゲルマニア。それはトリステインの北東に位置する、キュルケの祖国。ゲルマニアは 他のトリステイン、ロマリア、ガリア、アルビオンと異なり、政治を司る首長の血統が 始祖ブリミルの系譜ではなく、そのこともあってか他国とは社会制度や気風が大きく異なる。 形式よりも実質を優先し、メイジでない者でも財力と実力次第で貴族に成り上がれる。 これらのことから他国はゲルマニアを「野蛮」と侮蔑するが、その姿勢がゲルマニアを トリステインの10倍以上の面積を持つ大国へ成長させたのは紛れもない事実である。 またゲルマニアは、ハルケギニアで最も工業が盛んである。魔法の技術はガリアに及ばないが、 平民でも扱える銃や大砲などの火器の開発力は他国を大きく突き放しているので、 軍事力の観点ならガリアと肩を並べる。ゲルマニアもトリステインと同じように 何度か怪獣が出現しているが、基本的に歯が立たないトリステインと違い、抱える火力を駆使して 怪獣を倒す実績を築き上げている。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 しかしある日の早朝に、その火器を造り出す大切な工場の一つを襲っている怪獣は、それまでの怪獣たちと異なり、 ゲルマニアの火力を以てしても暴虐を止められなかった。怪獣の正体は暴れん坊怪獣ベキラ。真ん丸とした目を持った 愛嬌のある面構えからはちょっと想像できないが、その実異名通り怪獣の中でも非常に凶暴な性質で、見境なく暴れて 周辺の大地を荒野へ変えてしまう。 恐ろしいのは性格だけではない。戦闘力も侮れないものがある。筋力は言わずもがな強力で、 口から吐く火花状の火炎は街を簡単に焼き払う。そして一番厄介なのが防御力で、その皮膚は 並大抵の攻撃では突き破れないほど頑強なのだ。 そんなベキラにも弱点がない訳ではない。皮膚が固いのは正面だけで、そちらに防御を集中しているからか、 背面は嘘みたいに脆弱。ここが急所となっているのだが、また厄介なことにベキラはそれを熟知している。 弱点の背後には徹底的に気を配り、攻撃は必ず正面から受けるようにする、難攻不落の怪獣なのだ。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 そして何より、ハルケギニアの人間がベキラの弱点を知っているはずがない。ベキラが必ず 正面を向くように動いていることにゲルマニア軍は気づかず、攻撃を受け止め続けられて、 反撃と消耗で弱っていく。 既に工場の半分はベキラによって目も当てられないほど破壊されてしまっていた。必死に抵抗する ゲルマニア軍だが効果が出ず、戦意がくじけかけていた、その時、 「セリャァァァァァァァッ!」 空の彼方から、ウルトラマンゼロが赤熱する飛び蹴り、ウルトラゼロキックを放ちながら ベキラの背面目掛け飛んできたのだ! はるか遠方から高速で飛んでくるゼロの存在を、 さしものベキラも認知できず、接近に気づいて振り返ろうとした時には遅かった。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 必殺のキックは弱点の背中に深々と突き破り、ベキラは背中から火花をまき散らしながら倒れ込んだ。 そして間を置かずに爆散する。 『よっ……とぉッ! 一丁上がりッ!』 着地してすぐに工場の火災を消火したゼロに、ゲルマニア軍が大歓声を送るのだが、当のゼロには、 怪獣を瞬殺したにも関わらず、それに構っている余裕がなかった。カラータイマーが点滅しているのだ。 わざわざ隣国トリステインからここまで飛んできたので、到着した時点でもう制限時間が近かったのである。 『あーもうッ! うるせぇな! 分かったよ、帰ればいいんだろ帰ればッ!』 若干キレ気味のゼロは、両手を空高く掲げて空に飛び立ち、はるばる飛んできたトリステイン魔法学院へと、 とんぼ返りで帰っていった。 「はぁ~……」 魔法学院本塔の玄関前に立ち並ぶ生徒たちの列の後ろで、才人が大きくため息を吐いた。 それをルイズが咎める。 「ちょっと、みっともないからシャンとしなさい。もうすぐ姫殿下がいらっしゃるのよ」 「そうは言われてもなぁ……こちとら疲れてるんだよ」 ルイズたち生徒が玄関前で今か今かと待っている相手は、トリステインの王女アンリエッタ。 授業中にゲルマニア訪問の帰りに急遽魔法学院に立ち寄ることをコルベールが知らせてきたので、 授業は全て中止され、教師生徒総出でアンリエッタを迎えることとなったのだ。 しかしそれと才人の疲労は別の話。彼は今日の朝、ゼロが遠くの地ゲルマニアでベキラが暴れていることを 超感覚で察知し、戦況からして人間の手に余ると判断して洗濯の途中だった才人に変身をさせて、 退治に向かった。怪獣退治自体には何の問題もなかったのだが、才人とゼロは現在一心同体、 彼の消耗はそのまま才人の体力に響くのである。これまでにも遠出をすることは何度かあったが、 今回は今までで一番長い距離を往復した。だから今日は一段と疲れているのだ。かつて地球を護っていた ウルトラ戦士は、防衛隊に所属することで現場での変身が出来ていたようだが、この世界には 国家を超えた対怪獣組織は今のところ存在しない。 ちなみに怪獣退治で才人の雑務が放り出される時は、メイドのシエスタが助けてくれる。 才人は彼女に深く感謝しているが、このことは何故かルイズを苛立たせるのだった。 『悪いとは思ってるが、こればっかりはどうしようもねぇんだ。すまんが我慢してくれ』 「あッ、別にゼロを責めてる訳じゃ……」 ゼロに謝られて逆に気が引ける才人だが、ゼロの方はそれを聞いておらず、こんなことをぼやいた。 『せめてミラーナイトがいれば、移動に時間を掛けることはなくなるんだがなぁ……』 「ミラーナイト?」 才人も聞いたことのない名前に、ルイズと一緒に首を傾げた。 「そのミラーナイトっていうのは、もしかしてゼロの仲間?」 ルイズは今日見た夢の終わり間際で、その名前を一瞬だけ聞いたような気がしたのを思い出して尋ねた。 『あぁそうだ。俺の結成したウルティメイトフォースゼロの一員だぜ。……っと、 ウルティメイトフォースゼロのことは教えてなかったな』 ちょうどいい機会だと、ゼロは二人に「ウルティメイトフォースゼロ」のことを説明し出した。 『俺はこのハルケギニアに来る前、故郷光の国がある宇宙とは別の宇宙を守る役目をしてた。 そうなった経緯は長くなるんで省くが……。で、俺は任に就くに当たり、その宇宙の戦士たちを 仲間に引き入れて、新宇宙警備隊を結成したんだよ。メンバーは炎の戦士グレンファイヤー、 鋼鉄の武人ジャンボットとジャンナインのジャン兄弟、そしてさっき言った鏡の騎士ミラーナイトだ』 才人とルイズの脳裏に直接、ウルティメイトフォースゼロのメンバーの姿が映し出される。 『ミラーナイトは鏡から鏡へ移動する、とても便利な能力を持ってる。あいつがいれば、 俺も移動に貴重な変身時間を費やす必要がなくなるって訳だ。あいつらは俺と違って、 制限時間ってものもないしな』 「そんな便利な能力がある人を、どうして連れてこなかったの?」 ルイズの素朴な疑問に、ゼロはこう答えた。 『いや、連れてきたんだぞ』 「えぇ?」 『どれだけの期間と規模の任務になるか分からなかったから、人手はあった方がいいと思ってな。 元の宇宙も平和になってたし、留守はジャンナインに任せて、四人でこのハルケギニアに旅立ったのさ』 「って、ちょっと待てよ。俺たち、そのミラーナイトたちを一度も見てないんだけど」 「そうよ。一体どこ行っちゃったの?」 当然その疑問が出てくる。それに対するゼロの回答は、とんでもないものだった。 『それが、宇宙を移動してる最中に運悪く次元嵐に遭っちまって、バラバラになったんだよ。 何とかまっすぐたどり着けたのは俺だけだったんだ。才人と激突したのも、それが原因の一つなんだ』 「えぇぇ―――――――――!?」 急にルイズと才人が大声を上げて周囲が怪訝な目を向けてきたので、慌ててごまかした。 「ちょっと! それってすごくまずいんじゃないの!? 仲間が行方不明になったんじゃない!」 「そうだよ! 探しに行った方がいいんじゃ……!」 血相を抱えるルイズたちだが、ゼロはあっけらかんとしたものだった。 『なぁ~に。あいつらがそう簡単にくたばるかよ。今は時間が掛かってるだけで、自力でこのハルケギニアに たどり着けるはずだ。その時俺がどこかに行ってたら困るだろうし、こうして待ってるだけでいいさ』 「そ、そんなものなの……?」 思わず呆れ返るルイズ。どうもゼロは、良い意味でも悪い意味でも、楽観的なきらいがある。 それが悪い方向に転ばないといいのだが……。 それと、ミラーナイトの名前を聞いて、今日の夢の内容を思い返す。あれはきっとゼロの記憶……それを見たのだ。 その中に出てきた、あの漆黒のウルトラマンは一体……。きっと終わったことなのだろうが、 あの「ベリアル」という存在が、ルイズの心に強く刻み込まれていた。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな――――り――――ッ!」 なんてことを考えていたら、とうとうアンリエッタの到着が告げられた。それにより、 玄関前の全員がたたずまいを直した。 そして正門をくぐった王女の乗る馬車が、玄関前で停止する。緋毛氈のじゅうたんが敷かれると、 最初に枢機卿マザリーニ、そして彼が手を取りながらアンリエッタが降りてきた。生徒の間から歓声が上がる。 「あれがトリステインの王女? ふん、あたしの方が美人じゃないの」 気の強いキュルケがつまらなそうに呟く。 「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」 才人に尋ねるが、その才人はルイズの方に集中していた。 ルイズは何やら真面目な顔をしてアンリエッタを見つめている。その様はなんとも清楚で、 美しく、華やかである。 その表情に見とれていると、不意にルイズがはっとした顔になった。それから顔を赤らめる。 表情の変化が気になって同じ方向を見ると、その先には王女の従者の一人、見事な羽帽子をかぶった、 凛々しい貴族の姿があった。 ルイズがその貴族をぼんやり見つめていると、才人は何だか非常に不愉快な気持ちになった。 そしてそれからずっと、ルイズは様子がおかしかった。立ち上がったと思ったら、再びベッドに腰かけ、 枕を抱いてぼんやりしている。 「お前、ヘンだぞ」 たまらなくなった才人がそう言ったり、目の前で手を振ったり、髪を引っ張ったりと色んなことをしたのだが、 全く反応がなかった。普段ならこんなことをしようものなら、即刻張り倒されるのだが。 何にも反応を示してくれないので、才人が一人で落ち込んでいると、ドアがノックされた。 初めに長く二回、それから短く三回……。 それでようやく、ルイズが反応をした。急いでブラウスを身につけ、立ち上がると、ドアを開いた。 そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった、少女だった。 「……あなたは?」 ルイズが問いかけるが、少女は口元に指を立て、魔法の杖を取り出すと軽く振った。光の粉が、部屋に舞う。 「……ディティクトマジック?」 ルイズが尋ねると、頭巾の少女が頷く。 「どこに耳が、目が光ってるかわかりませんからね」 調べ終わってから、少女は頭巾を取った。その下の顔は、紛れもないアンリエッタ王女その人だった。 ルイズは慌てて膝を突く。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは涼しげな、心地よい声で言った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔